魔法石付き

 また、あの女の子にあった。


 やはり、街の外で道の真ん中にいた。だが前回と違い今回は槍をもっていた。

 まあ、そんな装備じゃ全然大丈夫じゃないと思うが。


 今日は連れがいた。同じくらいの身長の丸刈り少年。お友達か?



 通りかかる車に乗せてもらおうと待っていたらしい。そういうことならと、乗せてあげる。


 女の子の名前はキクと言うらしい。

 丸刈りの少年はアトルといいクマリンで出会った家無しの子供で、今一緒に住んでいるらしい。


 正直、騙されているのではと思った。


 キクは見た目、お金持ちのお嬢さんだから金銭目当てで近づいた輩かもしれない。

 目的はなんだ?財産か?家の利権か?スパイか?


 警戒しながらも話してみると、貧民街出にしては、擦れていないお人好しで苦労人な少年だった。

 案外キクは見る目があるのかもしれない。


 アトルは、こちらが品定め中なことにも気づくことなく


「どう見てもアイツ子供だよな? な? な? 俺の頭おかしいわけじゃないよな?!」


 ものすごい勢いで同意を求めて来た。その剣幕のすごさにとにかく頷く。


「だよな!? やっぱりアイツの方がおかしいよな!?」


「ずっと二人でいるとさ、自信がなくなってくるんだよ」そう言ってアトルはここぞとばかりに愚痴ってきた。ずっと誰にも言えず溜まっていたのだろう。

 まあ、同い年くらいの女の子に「孫」扱いされちゃたまんないわな。


 ぶちぶち文句垂れてるくせに、必ず最後に「まあ、別にいいんだけどよ」と締める。

 ヘンテコだけど世話を焼きたくなる感じ。わかる。わかるよ。


「可愛いもんな」


 アトルの顔が一気に赤くなって「はあっ!?」と言ったかと思うと、すぐ沈静化させた。


「いや、可愛いとは思う。そこは否定しない」


「ただなあ」と肩を落とす。


「中身が残念」


 ぶはっ


 あたしと全く同意見で大笑いした。





 こうして、ヘンテコキク一家との長くて短い付き合いが始まった。









 初めてキクの家に案内された時は冗談かと思った。


 森の奥に続く道があるのは知っていたが、こんな山の中に家や麦畑があるとは思わなかった。


 しかも、ここの麦畑、クマリンの麦より遥かに実りが良い。


「よく、この広さを二人でやったね」


 この広さの麦畑をもっているなら、収穫の道具もそろっているはずだと、親父が物置小屋を見せてもらっている。


「これ、誰が考えたんだ?」


 指差した先には刈った麦が棒にひっかけて干してある。

 クマリンでは地面に放置しているのに丁寧なことだ。


「稲はこうやって干すんじゃよ」


 へー。稲は作ったことないので知らなかった。

 珍しい事知ってるな。


 こんな立派な麦畑もってて、麦の収穫の仕方知らないってどういうことだよと聞くと引っ越してきたばかりで麦刈りは今回初めてだという。


「いつ引っ越してきたんだ?」

「忘れてしもうたわ」


 ……忘れないだろ普通。


 物置小屋を調べていた親父が「すごいのがあるぞ!」と感嘆の声をあげた。

「これ、魔法石つきだ」


 みると、確かに小さな石がついていてその周りを囲むように模様が描いてある


 魔法石は、魔法が使えるようになる石なのだが思った通りの魔法を扱うのは難しい。

 修行に修行を重ねやっとできるようになるらしい。


 そこで考え出されたのが、【魔法の固定化】魔法石の周りに魔法陣を描くことで一定の働きのみをさせるのだ。

 これにより誰にでも魔法石が使えるようになった


 早速親父はウキウキと脱穀機を外に出し、魔法石に手をかざし動かしてみせる。

 ガコガコガコと脱穀機が動き出した。


「なんと!魔法石とは「手品式ボタン」のことだったか」

 キクが感嘆の声をあげた。


 ん? 手品? ボタン? なんの話だ?


「トイレによく付いてる手を近づけるだけで水が勝手に流れるアレじゃろ?」


 トイレによくついてるって? え? それは見たことないけど……


「なるほど、確かに魔法のようじゃ! それで魔法石か! うまいこと言いよる」


 キクが何かに納得して頷いているが、どうすればいい?

 不安になってアトルに目をやる。


 スルーしろと合図があった。



 指示通りスルーして脱穀機に麦穂をさしこんでいくと、麦粒がとれて横から出てくる仕掛けになっていた。


 なんだこれ、すごい楽!


 普通の脱穀機は足漕ぎで動くようになっている。なのでかなりの体力をつかうのだが。


 魔法石付最高!


 これは間違いなくイミダゾール製だろう。

 魔法石付の武器は昔からあり、結構出回っている。

 だが、魔法石付の日用品といったらイミダゾールくらいだ



【魔法都市イミダゾール】

 何もない荒野だった場所から最近急激な発展をとげた新しい都市。

 魔法石を使った道具の開発が進み他の追随を許さない。

 世界中の魔法石がそこに集まり製品化されていく。

 ただ製品化されたものが外に出ることは少なく、それ故に非常に高価なものとなっている。



 これも、相当高かったんだろうな。


 他にも魔法石付がないか探したら、出てくる出てくる。

 刈り取りから製粉まで全部魔法石付だった。


 全部駆使して出来た麦粉は真っ白。表皮が一切混じっていない純度の高い粉ができた。


 これは、かなりの高値で売れる!

 なるほど市場にでまわるイミダゾール産に高値が付くのはこういう理由か。


「今度貸してくれ!礼金は弾むから!」


 と頼み込んだらニコニコ顔で「もちろん、いいとも」と頷かれた。


 ……もうちょっと悩んでもいいと思うのだけど。


 だって、ほら、そのまま盗んでいくかもしれないぞ?返さないかもよ?


 信用されているのか、何も考えてないのか。

 なんか後者な気がするが。

 隙だらけでこっちが不安になる。


「いつか悪い奴に騙されないといいけど」

「もうすでに、騙されまくっているけどな」


 アトルが言うには初回のクマリンでひったくりに会い、前回は幸せになれるツボを買わされてきたらしい。


 本人曰く

「信じたわけではないぞ。ただ、子供が家で腹を空かせて待っていると言うもんでの、かわいそうでのぉ……。だから騙されてやったのじゃ」

 とのこと。


「かわいそうなのはお前だ!」とアトルが唸る



 やばいよ。アトルじゃないけど、あたしも頭が痛くなってきたよ。

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