完璧な人
「今日は、君に大事な話があるんだ」
きらびやかな街並みを見下ろしながら、律くんはたいそう真面目な顔でそう言った。あたしはすぐにどんな話をされるのか理解した。律くんと付き合ってもうすぐ3年。そろそろ頃合いだろうと思っていた。
律くんは完璧な人だ。エリート商社マンで、学歴も、語学も、笑顔も、エスコートも、気遣いも、優しさも、誠実さも、365度どの角度から見ても崩れない完璧さだった。
律くんと結婚すれば、人生花丸、順風満帆。絶対的な幸せが約束されている。実際あたしは今まさに幸せの渦中にいた。高層ビルの高級レストラン、しとやかなクラシックミュージック、次々に運ばれてくる美しいフルコースのディナー、きらびやかな街並みまで全部あたしのものになったようだった。女の子なら誰もが一度は憧れる最高のシチュエーションだった。
それなのに、こんなに大切なときに、はじめての人の事を思い出してしまうのは何故だろう。こんなに完璧なのに。
彼が完璧であればある程、あたしはあの淀んだ海と、形になれない不完全なけむりを思い出してしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます