完璧な人

「今日は、君に大事な話があるんだ」


きらびやかな街並みを見下ろしながら、律くんはたいそう真面目な顔でそう言った。あたしはすぐにどんな話をされるのか理解した。律くんと付き合ってもうすぐ3年。そろそろ頃合いだろうと思っていた。


律くんは完璧な人だ。エリート商社マンで、学歴も、語学も、笑顔も、エスコートも、気遣いも、優しさも、誠実さも、365度どの角度から見ても崩れない完璧さだった。


律くんと結婚すれば、人生花丸、順風満帆。絶対的な幸せが約束されている。実際あたしは今まさに幸せの渦中にいた。高層ビルの高級レストラン、しとやかなクラシックミュージック、次々に運ばれてくる美しいフルコースのディナー、きらびやかな街並みまで全部あたしのものになったようだった。女の子なら誰もが一度は憧れる最高のシチュエーションだった。


それなのに、こんなに大切なときに、はじめての人の事を思い出してしまうのは何故だろう。こんなに完璧なのに。


彼が完璧であればある程、あたしはあの淀んだ海と、形になれない不完全なけむりを思い出してしまうのだった。

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