第十六話

 わたしは武者震いしていた。

 にくたいを支配されながらもしんとうしていた。

 たんげいすべからざる最後の『計画』におよんでうつぼつたる畏怖の感慨からきよくてんせきとしてしんとうしているわけではなかった。こうまいなる聖人君子でもないかぎりるいじやくなる人間というものはろうれつなるものでありこの悪魔たちとの契約から幾多の偉人をいんめつしてきたわたしはすでに傲慢なるひとりの人間を暗殺する程度ではほうはいたる胸臆のとうつうに猛襲されることもなくなっていた。この最終的なる暗殺によりついいちれんたくしようのあなたとかいこうできるのだとおくそくするときゆうきようひやくがいけいれんするかのようにうつぼつたる希望がまんしてゆくのであった。ふたたび灰褐色のマルボロをくゆらしはじめたベルゼブブはつぶやいた。いわくこれでいいよなと。わたしはけんらんたるきゆう窿りゆうにまでしようりつする『国家社会主義ろー労働者党』本部を仰視しながら返答した。ああと。ほうじようなるベルゼブブは燃焼したままのマルボロをほうてきしてしようじゆした。すまんなと。

 わたしはベルゼブブの人間臭さに喫驚した。

 ベルゼブブも七大罪を象徴する一柱の悪魔であり何処どこまでが微衷のれきかはしゆんべつできなかった。極悪無道の七大悪魔との契約どおりわたしがいちれんたくしようのあなたとかいこうするためにははや感傷的なる感慨に猛襲されている余裕など絶無であった。およそ二時間後に予定されているろーていこくの演説にむけてわたしたちは精緻なる計画を構築していった。まずわたしはほうじようなるベルゼブブからなる長方形の機械を譲渡された。いんぎんに微笑するベルゼブブいわくこの機械は大気圏外のかいなる廃棄物となった人工衛星所いわゆる『スペースデブリ』を操作するものらしかった。二十五世紀末葉から大宇宙内でのスペースデブリのまんを危惧したいん軍部が廃棄物たるスペースデブリを新型の測位システム『ガリレオⅡ』を介在してりようえんなる地球上から遠隔操作しおよそ半径二メートルの精度で地球上の対象に墜落させるという未来型兵器の開発したのであった。驚異的なる破壊力の新型大量破壊兵器と比較しごうの対象しかせんめつできないことから実際の軍事衝突では投入されなかったがベルゼブブいわちようきゆうの防弾がらじようされた総統を暗殺するには無防備なる天空からの攻撃が最適だとのことであった。およそ一時間半後予想以上にばんこくれいみんさんそうしたことからろーていこく総統はきゆうきよ演壇にきつりつし全世界への生放送の開始とともに狂言の演説をはじめた。刹那ベルゼブブにひようされるままに機械を設定したわたしはきよの総統がきつりつする演壇へとむけてかいなるスペースデブリを投入するように操作した。しゆもなくさんらんたるきゆう窿りゆうからごうおんめきはじめほうきぼし状にえんを棚引かせた人工衛星が墜落しきよくてんせきろーていこく総統がとんざんする時間もないうちにたる演壇を直撃してはくいろえんと漆黒の煙霧による爆発が発生しごうぜんたる爆発音とともに衝撃波が演壇をじようしていた首脳各位をなぎたおし突然の爆発にきようがくした群衆は将棋倒しのように薔ばら状にてんとうしていった。

 わたしはり武者震いしていた。

 無論のこと全世界に全方向映像で生放送されていた唐突なる世界的覇権国総統の暗殺はろーていこく政府各位からろーていこくへきすうじんけんじゆうりんされている奴隷たちにまでもちようきゆうの衝撃をもたらした。突如祖国総統且軍部総司令官を喪失したろーていこく陸海空軍中枢はしゆもなくろーていこくの基盤をばんじやくたらしめるために権力闘争を勃発させた。がんめいろうなる政治的権力闘争によるこんとんのなか世界各地占領国での指揮は混乱しついばんこくの各民族の超国家主義者たちによる世界同時多発クーデターが勃発して蹂躪されていた各民族の政治的主導者が武装蜂起をじやつしゆもなくていこく首都ろーは壊滅して世界規模の新政権樹立のため世界各民族の政治的主導者同士による衝突が発生ししようけつを窮めるゲリラ的総力戦に発展して泥沼化し結果として四十六世紀の地球上はせんめいたる政治的基盤を喪失した実質上の無政府状態へとばくしんしていったのである。

 わたしの大罪はおわった。

 わたしのりよはおわっていなかった。

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