第十四話

 わたしはきんじやくやくとしていた。

 ようやくすべての『計画』が完遂されたはずだった。

 西暦一九七二年の英吉利いぎりすはオックスフォードでヒトラーとたいしたウィンストン・チャーチルの存在をいんめつするためにその父親せきがくのランドルフ・チャーチルを暗殺したわたしはくだんのとおりほうじようなるベルゼブブとともに巨億のぎんばえによる暗黒のなかをばくしんほうはくたる時空を超越してついに――一応『契約どおり』に――りようえんなる四十六世紀中葉の『現代』へと生還した。契約どおりいちれんたくしようのあなたとけつべつしておよそ二千五百年後の日本であなたとかいこうできるとおくそくしていたわたしだがかいわいの景色がひようへんへんぽんとして出現したのはおよそじゆんこうかいの日本とはこうかくできぬなる光景であった。老若男女が虹色の洋服をてんじようさせながらしようようかつからくれないの半透明の摩天楼がしつするこの場所はベルゼブブいわかつよーろつと呼称されていた地域現代ろーていこくの首都ろーであるということだった。

 わたしは喫驚した。

 つづけて灰褐色のマルボロをくゆらせるベルゼブブは説明した。ほうはいたる破滅を回避したすいろーていこくりようえんなる現代まで繁栄ししようけつを窮める二十世紀の両大戦に勝利した。ほうはくたるよーろつ全域とぼうばくたる覇権国を領土としたろーていこくは四十四世紀『反ナチス』『反ろー人』せんめつひようぼうし『しんせいなる世界最終戦争』を宣言し埃及えじぷとへの侵略かららんしようした最終戦争は合衆国への大量破壊兵器の投入さらに中東への侵略西中華人民共和国への大量破壊兵器の濫用と完璧にろーていこくの優勢として進捗してゆき最終戦争が泥沼化した四十五世紀には世界各地に展開した陸軍師団の総攻撃によっていん朝鮮連邦を支配するにいたった。さらに世界全域を支配したろーていこくは最後までたいをつづけた日本に最終大量破壊兵器『ツァラトゥストラ』の投入を予告し国土のじんかいめつを危惧した日本独裁政権はきゆうきよ降伏を宣言して『しんせいなる世界最終戦争』はろーていこくの圧勝によってしゆうえんをむかえたと。

 わたしは疑心暗鬼を生じていた。

 ふんまんやるかたないわたしはなる現代都市のなかでも異様にかいなる建築物――からくれないせんじようの巨塔であいたいたるむらくもりようさんらんたるきゆう窿りゆうにまできつりつしていた――をはるかしながらえいしようぜんとしたベルゼブブに尋問した。すなわちおまえたちの『計画』はまだ完遂されていなかったんだな。いやおれたちの『契約』はこれから完遂されるんだなと。ごうとなったマルボロをほうてきしたベルゼブブは返答した。いわく隠すつもりはなかったんだ。まで遂行されればこの『計画』を完遂できる『にくたい』はいくらでも存在する。おれたちとしてはりあんたに最後まで決着をつけてほしい。あんたには最後の最後にろーていこく総統を暗殺してほしい。でなければおれたちの『契約』が完遂されるまえにあんたの恋人はろーていこくの犠牲者となるだろう。簡単なことだしゆもなくあの『国家社会主義ろー労働者党』本部のまえで総統の演説がある。あんたにはからそいつを爆死させてもらいたいんだと。

 わたしはちゆうした。

 はや運命のかいらいと化していた。

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