第196話 短気というか

 父が病院に行くので車の運転手をする。母が父に付き添う。


 脳高速の影響ではなく元々父は気が短い。いわゆる「短気」という言葉そのもののすぐに怒鳴るとか殴るとか、そういうタイプではない。

 しばらくはおとなしくしている。おとなしい。しかし明らかに挙動にそわそわしたものが見える。指先で手摺りをトントンしたり、足も貧乏揺すりしたり。


 今日は内科の順番待ちで結局1時間30分くらい待ったのだが、40分くらいで「3番診察室が一時間出入りがない」と言い出す。

 1時間は経っていない。


 以前、何かのテレビ番組の実験で、「目をつぶって、数えずに1分経ったと思ったらボタンを押してください」というのをやると、高齢者ほど「感覚の1分」が長いという結果が出ていた。

 父はそんなことなかった。電器製品で「2秒間ボタンを押し続けてください」を1秒しか押さない。そういう人だ。(押した瞬間が「1」で、「2」で離しているような感じ)


 昔から脳高速だったのかもしれない。


 話は戻る。3番診察室の出入りがないことに私は同意した。それ以上コメントすることもない。どういうリアクションを期待したのかわからない。

 するとちょっと間を置いて同じようなことを言う。四回繰り返したので、私は窓口に「3番診察室は稼働してますか」的なことを質問した。ちゃんとやっているらしい。どうも今入っている患者さんが時間かかっているような感じだった。

 それを父に伝えて、これでもう話は終わりにした。まだ母になんか言っていたようだが、私にはもうこれ以上その話題に関わっても何も力になれない。病院の運営に口出ししたり、他の患者さんがひとりで診察にどれだけ時間を使って良いかなどを人を集めてシンポジウムするとかできない。

 多分、父は私にそれだけ負担かけてる自覚はないと思う。ただ私には対応する方法がわからない。

 断言する。私と父はまったく通じ合っていない。


 とりあえず今度病院で長時間待たされたときのヒマつぶしに、Androidタブレットで時代劇を観れるように措置した。

 役に立つかどうかわからない。

 通じ合ってないからね。




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