チーター殺すべし 慈悲はない
更科コダマ
デリケートに好きして
石畳の街道。天気は快晴。荷を積んだ馬車が行き交い、御者が互いに挨拶を交わしていた。
朝方に宿を出立し、前を歩く頼もしい仲間たちを見ながら、次の街はどんなところだろう。と思いを馳せていた昼下がり。
「ユウタさーん? 何をしているのですかー?」
「悪い悪い、ちょっと考え事してた! いま行くわ!」
前を歩く仲間に駆け寄ろうとする。
ぽんぽん。
後ろから、肩を軽く叩かれた。
振り返ると、飛沫のようなものが両目に噴霧され、一瞬おくれて激痛。
「がああああ! 目がー! 目がー!」
次に、胴体を灼熱が横切る。
「あづっ!?」
愛おしき彼女たちの悲鳴が聞こえる。
灼熱は鋭い痛みに変化し、俺は腹部を斬られたのだと認識した。
完全な不意打ちだった。
「何をしてるのミレイ、回復して! リーシャはソイツの足止め!」
イオラは冷静に支持を出すと、攻撃魔術の詠唱を開始。リーシャが、謎の襲撃者と刃を交えて時間稼ぎをしている間に、ミレイが癒しの奇跡を俺に施す。
「やってます! やってますけど……!」
ミレイの悲痛な叫び。視力は癒しの奇跡により回復したが、腹部の痛みが治まらない。パックリと黒い口を開けた腹部は、本来、零れ落ちるはずの臓物の代わりに、白銀の光を吐き出していた。
先ほど胴体を横切った灼熱の正体、巨大な漆黒の鎌は、その溢れ出る光を全て、禍々しい刃の中に収めてしまう。
「
激痛のあまりにうずくまった俺の上から、冷たく、甘く響いた声色で、襲撃者は女であることがわかる。
「畜生! 誰だ!? 何をした……?」
俺は、力なく両膝を地面につき、そのまま顔から倒れこんだ。
地面に横たわった俺の視界には、皮のような素材のサンダルと、ボロボロの包帯を巻いた足首しか映らない。
「トラックに轢かれて短い生涯を終えるも、異性同性を問わず魅了する
「だからなんだってんだ!」
「能力を己の欲望のまま躊躇なく使う危険な性格から、話し合いによる解決は皆無と判断。無力化させてもらいました」
「テメぇふざけやがって! リーシャ! イオラ! コイツをブチのめせ!」
「誰……? あなた……」
リーシャ?
「は? 気安く人の名前を呼んでくれるじゃない。アンタ誰よ?」
イオラ?
「……あれ? 私……なんでこんなところにいるんでしょう……」
ミレイ?
力の入らぬ四肢をもどかしく思いながら、唯一、動かすことのできた首をもたげる。
整ってはいるが、まだ幼い顔立ちに、不釣合いな大きさの銀縁眼鏡。手足に巻かれたボロボロな包帯に、フードのついたボロボロなローブ。その服装も服装だが、なにより異質だったのは、顔と、包帯に覆われた手足以外、前の開いたローブの奥が、黒い霧のようなもので覆われていることだった。そして自己主張の激しい漆黒の大鎌。これでは嫌でもある存在を思い浮かべてしまう。
「死神!?」
「無力化させてもらいました。って言いいましたよね。本来、彼女たちは、その力で
「はぁ!? なんだよ! なんなんだよ!? 神は俺を殺した! その侘びでいい思いをさせてくれるんじゃなかったのかよ!?」
俺が事故死をしたのは、なにかの手違いだったと神は言っていた。その侘びで貰った力を、どう使おうが俺の勝手じゃねえか!
そう続けた俺に、死神女のレンズごしの黒瞳は憤怒の炎を灯し、心底、忌々しそうな顔をする。
「勝手……ねえ?」
が、その表情は、すぐに満面の笑顔となった。
「まあいいです。その侘びが色々と問題あったみたいなので、回収させてもらいました。これからは自分の力でがんばってください」
「はー!? 回収!?」
「あ、お三方様、お騒がせいたしました」
記憶が混濁とし、話についていけないリーシャ、イオラ、ミレイの三人であったが、目の前でペコリと頭を下げた死神女に、いち早くイオラが我に返る。
「ちょ、ちょっと! そこの死神さん……でいいのかしら? 事情をなにか知っているのでしたら説明してくださる!?」
マズい……!
この三人の実力は、俺が一番よく知っている。一方、魔眼のない俺なんかタダの
「んー、どーしましょうかねえ」
「頼む、やめてくれ!」
コイツが急に笑顔になったのは、この展開を見越していたのだ! 畜生め!
平時に見たら愛らしく見えるであろう、その笑みで、俺とイオラを交互に見る死神女。
「きっと、忘れてた方が幸せかなー。と思って記憶を奪っておいたんですけどー、知りたいですー?」
「ごめん! いや、ごめんなさい! やめてくださいお願いします!」
身体が動かないので、無様に首だけをガクガクと上下させ、俺は必死に死神女に詫びる。
畜生! 畜生! 畜生!
「誰だか知らないけどアンタは黙ってなさいよ。決めるのはこの私」
冷ややかな瞳で、足元の俺をねめつけるイオラ。
畜生畜生畜生畜生!
「というわけで、私は知りたい。よろしくお願いするわ」
「……私からも頼みます」
「お願いします……」
イオラ! リーシャ! ミレイ! くそおおおおおおおお!!
「そこまでおっしゃるのでしたら、この彼と、お三方が出会ってからの記憶、しっかりお返しいたしますね」
三人の頭に、手を軽くぽんぽんと順番に置いていく死神女。そして俺の顔の横にしゃがむと、肩に手を置いた。
「私はもう仕事を終えたので、奪っていた四肢の力はお返しいたします」
俺の手を握って立ち上がらせた死神女は、片目を瞑って親指を立てる。
「グッドラックです!」
怒りと羞恥で顔を真紅に染め、わななくイオラ。逆に顔を蒼白にし、表情が消えたリーシャ。膝を突いて顔を手で覆い、静かに嗚咽するミレイ。
「うわああああああああああああ!!」
俺は、三人に背を向け、走り出した。
走り出したが、数歩で足をもつれさせ、勢いよく石畳の上を転がる。立ち上がろうとするも、足に違和感を感じたので見てみると、いつの間に足首から先が消えていた。
「どこへ行こうと? 仲間なのにつれないじゃないですか」
「うぎゃああああああああ!!」
「……………………」
「ミレイ! ミレイ!」
「ちょーっとエグ過ぎてあまり使いたくなかった魔術をいくつか思い出したわ私。選びなさいな。亡者どもに生きたまま食われるか、身体の内側から爆ぜて死ぬか、全身の穴という穴から体液を噴き出して死ぬか」
「嫌だ! やめてくれイオラ! 嫌だー!」
倒れていた俺の元までやってきて、再び顔の横にしゃがみこんだ死神女は、そっと囁いた。
「あなた……やりすぎたんですよ」
それが俺、
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