桜風

「覚えてる?入学式のこと」

△△が僕に話しかけた。

「覚えてないよそんなの」

○○の素っ気ないものであった。

「俺は覚えてるけど〜」

××が二人の会話に割り込んだ。

「お前には聞いてないよ」

「釣れねえなぁ。○○はすんげー制服着崩してたしな〜」

「何言ってんの、着崩してたのはあんたでしょ」

□□がまた会話に加わってくる。

「うるせぇ、なんかしっくりこなかったんだよ」

総計四人。この学園生活で最もよくいた四人。最も理解し合った四人。

「そんな××くんが野球部に入って、しかも主将になっちゃったんだもんね」

△△は自分の質問そっちのけで会話に乗った。

「そう、これでも校庭で土埃上げてたんだぜ。青春してたのよ」

「ほら調子乗らないー」

「うるせえなぁ、そういう□□だって○○に告白して、振られてたじゃねえか。全く青春だな〜」

××は少しを持った言い方をした。けれどそこには真の悪意を感じない。

「何よ〜靴箱にラブレター仕込んだだけだもんね〜あの頃は若かったわ。うん」

「何言ってるの。私たち、これからが始まりみたいなもんじゃない」

三人とも笑っている。僕もほんのり笑顔を浮かべる。そうだ。今日は僕らがここから卒業する日だ。

「なんだ、人の顔まじまじと見て。答辞読んだ人は余裕ですか〜」

××が僕の肩を組んでくる。その勢いと強さにさえ、温かみがある。

「あんな紙切れには意味ないよ。それよりも屋上でみんなとした雑談の方がよっぽど意味がある」

「お、言うようになったじゃねえの」

笑いが込み上げた。そんな中、窓際からひとひら花びらが舞い込んだ。桜の花びらだった。

「あっ」

僕は溢れたように言った。その花びらを見て△△は言った。

「ねえ、ちょっと外出てみないみんな」

「え、なんで」

「行きたいから行くんだよ」

みんなで外に出た。そこには一面の青空と、それを覆い隠してしまうほどの桜の木が満開に咲いていた。

「すごい、綺麗」

「桜の雨だ」

見惚れる。あまりにも美しく、その景色に心震えた。

「大人になれたのかな、僕たち」

「わかんなーい」

「なれるってきっと」

「まだまだ子供かもね」

三者三様。みんながみんな違う意見だ。みんなにまた会えるかな。いやきっと会えるさ。

「そういえば、さっきの答えてなかったね」

「ん?」

「入学した日、僕は先生の話を無視して机に落書きしてた」

「なにそれ」

爽やかな風が吹き続き、桜の虹が僕らの姿を包んでいった。

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