20~東へ逃亡でして~
雪斗は絶句、いや、絶望と言った方がいいだろう、青ざめた顔で確信した。完全にミサイルだった。
「雪斗、逃げよう、ヴィシーズに隣接したこの国が狙われる可能性がある」
原子力機関車はまだ完成してないはずだが優先的に全速力で作ると聞いたのでもしかしたら出来ているかもしれない。構体だけなら溶接で済むので可能性はあるのだ。
台車と配線はもともと機関車用の物が用意されているので問題なく、最後は原子炉だけが課題だった。
「よし、構体だけ出来ていることを前提の話だけど、国の北部まで運んでもらおう、未完成の原子力機関車と一緒に逃げる」
これなら完璧だ。できるぞ、未来の技術の結晶が。見てろよ、中世の指導者。
二人は来たルートを戻るようにして電車に乗り、工場へ走る。
そこにはレーザー溶接まで完成した構体があった。
「遅かったですね」
「えっ?」
「三分もあれば完成したのに出て行ってしまうのでびっくりしましたよ」
時間加速の魔法なのだろうか。『願い』が含まれてるからなのだろうか。
どちらにしてもありがたい。
「ではこの構体をウィースト王国の方へ運んで貰えますか?」
「わかりました」
蒸気機関車が登場して構体を工場からゆっくり、ゆっくりと引き出す。
蒸気機関車と構体の間には客車が挟まれて人が乗れるようになっていた。
「お二人は客車に乗車願います、個室です」
輸送は十五時間かかる。到着は翌朝だ。これは相当な大移動で、東へ、東へと進む。さらに途中で国をまたぐ。
目的地は島国で、非常に美しい景色が広がる街だそうだ。
二人は非常に広くくつろげる個室に入り、その島国『ウィースト』へと出発した。しかし。
「雪斗」
雪斗を呼ぶくれはの表情は満面の笑みだった。ただ若干棒読み気味だった。
「なぁに」
応える雪斗もまた満面の笑みだった。しかしこちらも若干棒読みだった。何を言おうとしているか大体分かったからだろう。
「ベッド、一つしかないわよ」
雪斗を呼ぶくれはの表情は満面の笑みだった。ただ若干殺意があるかのような顔だった。
「あらあら、添い寝ですね」
応える雪斗もまた満面の笑みだった。しかしこちらは若干死を悟っているようだった。何を言おうとしているか大体分かったからだろう。
「なんでアンタと同じベッドで寝なきゃならないのよ!!」
「なんでお前と同じベッドで寝なきゃなんねぇんだよ!!」
またいつかのように喧嘩腰になる。しかしすぐ二人は黙り、気まずそうにそっぽを向く。
年頃の異性二人だけで寝ること自体躊躇うのにこれではあまりにも恥ずかしすぎる。
男子はいいかも知れないが女子には無理がある。むしろこれを歓迎するペアがいるとしたらそれは完全にハワイに無計画で旅行に行って『帰りのチケットがないツアー頼んじゃってた、これ現地解散じゃねぇか』とあとから気づくチャラチャラした中学生カップル並の馬鹿さじゃないか。
しかしこうなってしまったのは仕方ない。夜になったらとっとと寝ればいいのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます