18~ホテルの遊びでして~

 二人はセントラルグラント駅に降りたったが、外はもう既に日が暮れ、夜になっていた。

 

 「くれは、この辺に安い宿あるか探すぞ」


 「千メイルがいい、お財布大事」


 中世とは思えない、発展した町並み。時計台の下にある観光案内所のような所に入る。

 周辺にある宿は高そうだ、そもそも宿らしい宿がない、もはやホテルである。 


 「雪斗、二千五百メイルするけどこの『ホテル ズッコンバッコン』で良いとおもう、部屋が綺麗」


 「部屋は綺麗だね」


 「うん」


 「名前が汚い」


 他の宿、ホテルは五千メイルを超える痛い出費になってしまうので名前は我慢して宿泊することにした。今回は設備がかなり豪華なので遊べそうだ。


 「いらっしゃいませ、ホテル ズッコンバッコンへようこそ」

 

 強烈なインパクト。受付嬢の満面の笑み。美しい受付の壁に誇らしく掲げられた『ホテル ズッコンバッコン』の文字。

 いくら時給が良くても働きたくない。このホテルで働くだけ不名誉だ。

 

 「予約無しの当日宿泊ですか?」


 「そうです」


 「ですよね! 当たった!」


 「え」


 笑顔なのは接客上仕方なくやったのかと思ったら素でテンション高い受付嬢に部屋の鍵、しかもカードキーを渡され階段を登る。五階だそうだ。何回も確認する、これは中世だ。


 「五百八、ここか」


 カードキーを使ってドアを開く。

 そして目にした部屋は想像以上に綺麗だった。

 

 「当たりじゃないの! なかなかいい部屋よ! 枕投げしましょ!」


 「急にテンション高くなったねって痛いからやめて」


 技術力がある割に枕は固く、ぶつかると地味に痛い。


 「この枕、中に金属入ってるじゃねえかそら投げるぞ」


 ブァサッ、ブァサッと金属が入った枕を投げ合う。金属が何かはわからないがとにかく痛い。でもホテルや旅館などでやることと言ったら決まってこれ、お馴染みのイベントだが――


 ――ビリッ。


 「あっ」

 「あっ」


 「お前よその枕なに破いてんだ!!!!!!」

 「アンタなに枕破いてるのよ!!!!!!」


 枕投げ後の責任の擦り付けあいも定番。最初に始めたお前が悪いんだろ、やり返したお前も悪いんだろなどと。

 


 「お前枕投げやるとか常識――」


 「急に黙ってどうしたのよ」


 「お前血出てんぞ」


 「ぎゃああああああ!!!!!!」


 「うわああああああ!!!!!!」


 くれはの膝には遊びすぎたからか傷が出来ており、出血していた。


 「ちょっと私に何してくれてんの!!!!!!」

 「お前が悪いんだろ! 最初に始めたのはお前だろ!」

 「アンタよ! アンタアンタアンタ!」


 こうしてケンカをしながらもレストランで食事をして楽しむ二人はある意味『彼氏彼女の関係』に見えてもおかしくないわけで。


 「おまたせ致しました、こちらはカップル様にお配りしております――」


 「カップルウウゥゥゥ?」

 「カップルウウゥゥゥ?」


 こうやって口を揃えるあたり、完全にカップルで、ケンカも結局は仲がいい証拠なわけで、レストランでもお年ごろの男女二人で楽しく話しているのを見たらそう考えられても仕方ないのである。

 二人は勘違いされ焦りながらも、突然異世界に吹っ飛ばされて振り回されたことを忘れて楽しんでいるようだった。


 「では置いておきますね」


 「おい待てゴラ」

 「まちなさい」


 ウエイトレスは微笑みながら恋人用のハート型ストロー付きレモンサワーを置いていった。


 「彼氏彼女とかの前にまず俺達未成年なんだけどなぁ」


 「ここに普通のストローあるしせっかくなら飲みましょ」


 「飲むの!?」


 くれはにしては意外だった。たまにふざけはするけど心が綺麗で真面目だと思っていたが未成年飲酒を率先して行うとは。


 静かなレストランで流れる時間はゆったりとしていた。

 そんな中、くれはが思いっきり酔って全裸で発狂したというのもまたいい思い出になるだろう。


 「胸、まだ成長するよ」


 雪斗とくれはの旅に少し楽しみが出来た。こういう時間も大切だなと、くれはを抱える雪斗は部屋に飛び込んだ。


 雪斗がこの後レモンサワーを追加で飲んで二人で発狂し始めたのはいい思い出に……


 なるのだろうか。

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