21.探索2回目



懐中時計を見ると、短い針は10時ちょっと前を指してた。うん、後少しでわかりやすい時間だ。

時計にくっついた宝石は、今日は緑色の炎が揺らめいてる。何で色変わってるんだろ。たぶんファンタジー的な理由なんだろうけど、まあいいか。綺麗だし。

安全地帯に出てきた私とテクトは、今日も綺麗なままの壁を見上げた。この安全地帯は吹き抜け2階よりちょっと低いかなってくらいの高さだから、幼女視線でも案外端っこまで見えるんだよね。

だから綺麗なまんまってのがよくわかる!まだ冒険者が誰も来てないって理解できるよ!108階層だもんね!知ってる!!


<無害な生物が住みつけば多少汚れるだろうね。その生物もモンスターに尽く捕食されてるだろうから、難しいと思うけど>

「ですよねー」


小さい虫や爬虫類ならオークとかから逃げられそうだけど、でっかいダンゴムシに食べられちゃうんだろうな……南無南無。

この階層、小さい生き物がいなくない?今の所、小さいって呼べるのは私とテクトしかいないよ?それ以外はもはや一軒家くらいの高さだよ?大げさかもしれないけど、幼女から見たらそれくらい高いよ?やばくない?


<そういう階層なんでしょ。指先ほどのアリ系モンスターに群がられるよりはいいよ>

「ぎゃくバージョンもあるんだね。ぜったい、そうぐうしたくないわ!」


極小モンスターでも顎めっちゃ凶悪そうだもんね。普通のアリでも油断すると血が出るくらい怪我するし、狂暴性と食人に傾いた生体がどれだけ危険か……あーやだやだ。想像しなきゃよかった。

でかい図体だから遠くからでも見つけやすいから、いい方なのかこの階……そう思う事にしとこう。


「きょうは、あさに1じかん、ひるはさんで1じかんだけ、たんさくだよテクト」

<ルイの体力がどれくらいか目安を立てるんだね。素早さは結構あるのに、ルイって力と体力なさそうだよね>

「そういえば、むかしはかけっこ、とくいだったよ」


園児の頃の話だけどね。運動会じゃ1等賞の常連だったよ。まあ、小学生に上がった頃からガチで早い人達に勝てなくなったけどね。他の競技もそんなに得意じゃなかったし、学年上がるごとに運動会が苦痛になってきたよなぁ。手先は器用な方なんだけどねー、ボール関係になると途端にノーコンで……玉入れで相手側のカゴに勢い余って入れちゃった思い出はそっと閉まっておこう。


<まあ、得意不得意ってあるからね>

「だよね!わたしはしゅげーが、とくいだもん!」


運動会の鉢巻作りはめっちゃ早かったんだからね!周りの子が1つ作る頃には3つ作ってたりしたもんだ!


<子どもの頃から得意だったんだね。確かに、そのワンピースもシャツから作り直したし、納得の出来だね>

「むかしから、ぬいものとか、たけあわせとか、おばあちゃんにおしえられてたからね」


と、着替えたピンク色のワンピースの裾を引っ張った。我ながらうまく出来たと思うんだよ。

大人用のシャツの縫い目をカットして広げて、すでに着てたワンピースを脱いで型に使ったんだけど、袖や裾部分を残すと楽だからそこに合わせて切るんだよね。生地の目も合わせないとだし、切り方大事。後は布の向きを間違えないようにマチ針で固定して、縫い合わせるだけ。これで長袖ワンピースの出来上がり。ちょっと縫う範囲が多いかな。

ダンジョン内が暖かければ、半袖のワンピースにしたんだけどね。半袖だと型を真正面から置いて周りを大きめにザクザク切って、肩と脇下と首回りを縫うだけで済むんだよなー。箱庭で過ごす用に、残ったシャツもやっちゃおっか。

端布れで作った花のアップリケは、端切れを細長く切って三つ編みにした紐に通して、リュックの金具に付けてみた。布だけで出来ちゃう手作りストラップだ。幼女らしさ満載ですようへへ。

あ、この時の姿をダァヴ姉さんに見られてたらめっちゃ怒られただろうから、どうやって型取りしたかは絶対内緒ねテクト。

って指を口に当てたら、半眼で肩を竦められた。なによー、テクトだってダァヴ姉さんに怒られたくないでしょ?


<はいはい、わかったよ>

「わーい、ありがとテクト!ねえにあう?にあう?」


ワンピースの裾を掴んだままその場でくるくる回ってたら、テクトが目を細めて優しい顔になった。お、おうぅ、突然そんな大人な顔されるとどきっとしますがな。


<回らなくていいから、似合ってるよ。ちゃんと可愛い>


そのままくすりと笑われちゃったよ。

別に、よ、幼女らしさを演出しただけだから。テンション上がってうっかり実年齢不相応な仕草が出たわけじゃないからね。また肩竦められた!うぬー!

いくら洗浄魔法で綺麗になってるって言っても、さすがに3日連続同じ服を着るのはなんか嫌だったから、着替えただけだし!下着?カボチャパンツから、幼女らしい花柄パンツに変えたよ。なんかごわごわした感じが耐えられなかったんだよなぁ。お腹冷えると悪いからスパッツもはいたけど、めっちゃ動きやすい。活発幼女に私は進化した!

あ、でも気になったんだけど、パンツもスパッツも身長ごとに売ってたんだよね。3つセットでお安いのがあったのは助かったけど……私は一体、いつ幼女の下着を一通り揃えられるくらい買ったんだろ。親戚の子にあげたのは涎掛けや紙オムツくらいのはずなんだけどなぁ。

もしかして、ナビって詳しく教えてって言わないとちゃんと答えてくれないんじゃないかな。AIっぽいし、パソコンみたいな感じできちんと検索掛けないと正しい情報くれないよ、みたいな。後でナビに聞こう。

とりあえず今は探索だ!


<今日はどっちに行く?>

「あっちは、どこにつながってるかまで、たんさくしてないんだよねぇ」


ミノタウロスやオーク、怖いのがいるってわかってる方を見て身震いする。

箱庭から出てきた場所から見て、左の道が一昨日と昨日行った方だ。右側はまだ未知の領域だけど、宝箱もその中身も1日経つと小部屋ごとにリセットされるらしいから、道がわかる左側へ行ってもいいかなって思ってはいる。怖いけど。体力の目安を考えるなら知ってる道の方がいいのかな。


「そういえば、テクトの目でわたしのステータスって、かんていできないの?」

<聖獣の目は本質を見通すだけであって、細かい数値化は出来ないんだよ。得意な事や、使える魔法やスキルはわかるんだけどね>

「まあ、ふつーなら人のステータスなんてみないもんねぇ」


力が強い、くらいがわかれば十分だと思う。比べるまでも無く、聖獣が圧倒的に強いから。細かい情報はいらないわ。

まあそういう事だね。と頷くテクト。こんなに可愛いのにすっごい力持ちだもんなぁ。あ、ちょっとムッてしたけど反論がない。可愛い解禁したもんねぇ。ふふふ、私は可愛いと思った時に可愛いって言うからねテクト。小さく<……食い意地の権化>とか言われたけど、き、気にしてないからね!ふふふ、私も解禁ですよ……!ちょっとちくっとするけど。

おっと、話してたら10時になった。ちょうどいいね。ここから11時まで、頑張ろう!


「ひだり、いこうか」

<うん>


テクトが定位置についた。隠蔽魔法のキラキラが私とテクトに降り注ぐ。

よーし、準備満タン!いっくぞー!!















長い廊下を抜けて、T字路に出た。ふう。今日もここまでモンスターはなし。

そういえば、一昨日も昨日も、ここはモンスターがいなかったなぁ。何でここらへんいないんだろう。


<近くにグランミノタウロスがいるからじゃない?絶対強者が近くにいて平気な弱者っている?>

「いないなぁ……」


私のようにね!

何でか胸を張ってると、テクトにぶにっと頬を押された。なによう。


<特にモンスターは生き物なら何でも食べるからね。強いモンスターに近づけば自分が食べられると、あいつらは本能で知ってるのさ。知性がない分、危機感はあるよ>

「でも、わたしがグランミノタウロスにおそわれたときは、モンスターがあつまってきたよ。いっぱい」


そしてきっとグランミノタウロスに何匹か犠牲になったんだろうね……うう、あの時の断末魔が頭に過るぅ。


<騒ぎがあるって事は、侵入者がいるって事。横から取れるかも、と欲を出したんじゃないかな。後考えられるのは、まあ、モンスターって後先考える知能ないし>

「ああー……」

<オークジェネラルだって、部下を率いる事ができる程度の頭脳しかないんだよ。他のモンスターより多少知恵が回るってだけで、基本的にモンスターって食欲が何物にも勝るから>


その食欲に圧倒的暴力が備わるから、モンスターは脅威なんだねぇ……いや本当、恐ろしい隣人だよ。騙される事がないから、外よりはいいんだろうけどね。

オークジェネラルがいた方に行くと、なんか、昨日よりピンク色が増えてた。目を擦ってもう一度見たけど、数は変わってない。

わー……オークジェネラルより軽装で小柄の二足歩行な豚がいっぱーい……わらわらしてるー……小柄って言ってもオークジェネラルと比較してってだけだから、私から見たらめっちゃでっかーい……うそぉ……


<部下が復活してるね。オークジェネラルが1匹でいるわけがないから、昨日は何かしらあって部下が死んでたんだね。納得>

「ううううわあああああ……!オークジェネラルはいいのかな?しんだぶかが、いちにちでよみがえって、なにくわぬかおでとなりにいて、それでいいの?」

<自分より階級が低いオーク種がいれば配下にする。死んだら配下が減る。そこに複雑な心境は、モンスターには無いよ。心がないからね>

「……かなしいいきものだね」

<そうだね>


だから、同情してはいけないよ。

そう囁いたテクトの気遣いに、私は大きく頷いた。そもそも私はモンスターに命を狙われる方なんだよ。実際に襲われてるんだ。悲しいなんて思っちゃ駄目だね。

頬をぺちっと叩いて、オークの群れに向かってく。隠蔽魔法が掛かってるから、どんなに近づいたってバレないんだ。

歩いていくと、オーク達にそれぞれ武器がある事に気づいた。杖、弓、斧、後は剣を持ってるのが多いかな。あ、あれ杖じゃない、棍棒だ。杖を持ってるのは1匹だけだね。棍棒と弓が2匹ずつ、斧が1匹で、剣が3匹。9匹の部下を整列させて、一際でっかくて頑丈そうな棍棒を持ってるオークジェネラル。

総勢10匹の巨大豚がみちみちと廊下にいるわけで……


「……テクト、これ通れなくない?」

<足元くぐればいけるよ。隠蔽魔法かかってるから、触っても相手にばれないし>

「ええええええええええ……」


隠れる魔法だからすり抜けは出来ないけどねーって。

足元もみちみちしてるよテクトぉおお……!!




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