○ 地主

 でっぷりと腹がせり出したその男は「ちょっとちょっとちょっとあんたたち」と、言った。「まったくもう。困るじゃないか」

「何にお困りなんですか?」と蓮太郎は尋ねた。

「大きく分けて二つあるよ!」と男は言った。冷静さを保ちながらお怒りのようである。

「まず、あなたはどちら様?」と歴史研究家が尋ねた。

「私はここいらの地主だよ!」

「ああ」と、蓮太郎は虚を突かれたように言った。「ここは誰かの土地だったんですね」

「誰かのじゃなくて私のだよ! この国に誰のものでもない土地なんかないんだよ! 何だい何だい、勝手に家なんか建てちゃって! しかもいい家じゃないかまったくもう!」

「ありがとうございます」

「いい家だから家のことはまぁいいよ! もう一つの話の方が大問題だよ!」

「というのは?」

「あんたたち、ここに駅ができるはずだったのに、勝手に断っちゃったでしょ?」

「あ……はい」

「あ……はい。じゃないんだよ! ぶっちゃけこんな辺鄙な土地持っててもしょうがなかったんだけどさ、駅ができたらどーんと価値が上がるからさ、そりゃ喜んだよ! それがぬか喜びになっちゃったよ! どうしてくれるんだ!」

「すいません……」と、蓮太郎は謝るしかなかった。

「弁償してよね!」と、地主はふんぞり返った。

「でも今、お金は……」いや、一応あった。「こんなものしか」と、蓮太郎は宇宙ドル札を差し出した。

「ん? こ、これは!」と、地主はおののいた。「そんな……まさか……いや、この透け具合、本物だ! なんということだ!」

 どうやらわかる人にはわかるものだったらしい。

 蓮太郎はいぶかしげに「それで足りるでしょうか?」と尋ねた。

「足りるよ!」と地主は即答した。根が善良な人物なのだ。

 歴史研究家が「じゃあ、このままここにいてもいいのかしら?」と尋ねた。

「いいよ!」と地主は即答し、大きな腹をぷかりと浮かべて川を流れていった。

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