マリール十九才 3
マジンはこれまで亜人の女をそれと意識して抱いたことはなかった。
すべての亜人種がヒトと外見上わかりやすい形で異なっているというわけではないから、必ずしも抱いたことがなかったかどうかはわからないわけだが、マリールのように全くはっきりとした外見上の特徴のある女を抱いたのは初めてだった。
感じから言えばマリールは全く普通に処女だった。
とくに床慣れをしているわけでも機能的にすさまじい何かがあるわけでも、もちろん膣に歯が生えていたり棘やウロコが生えていたりというわけでもなかった。
強いてあげれば、マリールはセラムに比べて体が馴染むのが早かったと言えるが、それでも四五日ばかりは股ぐらの様子を気にしていて、学校の業務も体調悪そうに他の人々に割り振っていた。
奇妙に積極的な割には、ただなんというか意外と普通の女だな、と思った。
「それは、我が君が私を客としてただの女として扱っているからですわ。これも生ぬるくて楽しいですけど、せっかく子種を頂いて孕んでやろうと思っていますのにこれでは何年かかっても孕むかどうかわかりません」
マリールは不満気にマジンにそう言った。
「私の両親の婚姻の契はまる三日かかったそうです。その後に一番上の姉を母は産みましたが、父は自分の力及ばず事至らなかったのかと悔やみ母に詫び、その後兄が生まれたことでようやく安心したとか」
「キミの血族は男の努力で子供の性別を決められるのか」
ここしばらくは開き直るようにマジンの寝床で寝起きをしているセラムが、枕語りのマリールの言葉に面白そうに尋ねた。
「努力というか暴力というか、男が女の体をパンの生地を捏ねるようにして子供を作るものだと、一族の者はよくいいます。物語では強い子供を作るために女の手足を切り落とし血を流させて孕ませたそうですが、流石に最近はそこまでのことはしません」
血腥いお伽噺か何かのようにマリールは語った。
「お前たちの一族の子供は女の痛みや苦しみが必要なのか」
いきなりの話の流れにげんなりしながらマジンは尋ねた。
「どのみち子供を生むときには背骨を抜くような痛みに襲われるということですし、痛いの苦しいのが嫌なら女の幸せは諦めろと母なぞはいつも言っております」
誇るようにマリールは云った。
「それにしたってなぁ」
訓戒の物語としては有り得ても、それが必須というのでは少しばかり苦労が多すぎるのではないかとマジンは思った。
「父も一族の男ですし、我が家は郷ではそれなりに重く扱われていた家だったので覚悟もあったようですが、理を尊ぶ文明を灯す聡明な人物とも慕われておりました。致し方なき道理あっての野蛮であれば踏み入れる覚悟もあったようですが、母の求めにも非情になりきれず、母の肋が折れ血を吐き悲鳴が途絶えたところで終ぞもう良いかと情けをかけたとか。兄の時はひとつきかけ父の尿と汚穢だけで母の渇きと飢えを凌がせたうえで、痩せ衰えた母の心の臓をしばし止めるほどに殴り付けながら種を仕込んだとか」
マリールは全く血まみれに野蛮なことを憧れるように楽しげに口にした。
「つまりなんだ。キミは死ぬ寸前まで傷めつけて追い込んで犯せと、そういうことを言っているのか、キミは」
マジンが嫌そうにそういうと、マリールは嬉しそうに幾度も頷いた。
「――やだよ。バカバカしい。そんな面倒くさいこと。第一、ウチで軍人が死んだなんてことになったらどうやったって大騒ぎになる。……セラム。リザの友人ってのはみんなあんな風なのか。勘弁してくれよ。どいつもこいつもボクを種馬扱いかよ」
マジンはセラムの体に甘えるように潜り込み、刺し繋がった。
「我が君。死合ましょう。決闘。決闘しましょう。軽くでいいです。決闘しましょう」
女とつながっているマジンに甘えるようにマリールはねだった。
「もういいじゃん。ついこの間もキミがボクを刺したし、それで決着でいいじゃん。血を流したからボクの負け。おめでとぉ」
セラムは子宮を揺さぶるマジンを下から面白そうに眺めていた。
「負け逃げなんて、許しませんよ。そもそもあの日は私も気絶させられたんです。きっとあのまま犯してくだされば、もっとちゃんと我が君の女になれたのに」
「だいたいなんだってそんなにボクが好きなんだ。命の恩人への恩返しなら別の方法を考えろよ」
騒々しく絡むマリールに集中を乱され流石にマジンの言葉もぞんざいに荒れる。
「それはだって、息を吹き分けていただいた方をお慕いするのは雛が親鳥を慕うのより当たり前ですわよ。あんな黄泉を照らすような魔導の息吹、郷でだってなかなか感じられませんでしたわ。魔導魔法の素養がないと聞いて驚きましたけど、この館の有様を見れば納得もしました。必要ないところに魔導も魔法もありませんわね」
セラムが突然マジンの陰嚢の中の管を探り揉み探るようにして射精を促した。
「今晩はこれで失礼するよ。君達には話し合いの時間が必要のようだ」
セラムは呆れるような声で言うと、マジンの腕の下から体を這い出すようにして閨を去っていった。
流石にいくらなんでもバカバカしくなってしまったらしい。
自分もそう思う。とマジンはセラムに心のなかで謝ったが、理不尽な状況は終わっていない。
「つまりなんだ。マリール・ミラォス・デゥラォン・アシュレイ。きみは四肢ことごとく圧し折って、肋も内蔵も傷めつけるほどに傷つけ死に至らしめた後に犯し孕ませろとそう言っているのか」
心底呆れて尋ねるマジンに、蕩けるようにニンマリとマリールは笑った。
「そこまでしていただければ私が死んだとして、軍はともかく、私の両親はむしろ我が君には深い感謝をするでしょう」
「軍はともかくって……」
マリールの言葉にマジンは誰かに助けを求めたくもあったが、彼女の正気はともかく本気であることは疑いようもなかった。
マジンは並びの部屋のセントーラを起こすとこれから喧嘩をするから、朝まで扉を開けないようにと念を押して閨の鍵をかけた。
翌日、昼ごろになってまだ部屋から出てこないマジンを流石に心配したセラムがセントーラとともに閨の鍵を開けると中は火がついていないのがせいぜいマシ、銃の弾痕がないのがマシと云う有様の荒れ果てた室内で、残骸のようになった血まみれの寝台に投げ捨てられた人形のようにあらぬ方向に手足を向け中身が抜けたようになったマリールを犯しているマジンを見つけた。
真珠のような白く張り艶のあったマリールの肌は赤青紫の斑の痣に塗れその体で無事なところを探すほうが難しく、マジンの前腕には深く噛みちぎられた様な痕もあり、喧嘩とか決闘というよりは血に飢えた獣の殺し合いのようにしか見えなかったが、マジンは部屋の様子に驚いている二人を見ると、全く冷静な様子でマリールの中に射精をして離れた。
「アシュレイ様は生きておいでですか」
セントーラが無駄に主を刺激しないような静かな声で尋ねた。
「幾度か危なかったが、今は生きてる。わざと殺して生き返らせるなんて面倒くさいこと、もう嫌だ。妊娠していようがどうだろうが知らんが、これだけ壊せばしばらくは動きたくても動けないだろう」
マジンが自分でやるだけやっておいて嘆いてみせるのを、二人の情婦は困った顔でため息を返した。
「その腕は」
血まみれのえぐれた両腕の傷に気がついてセラムが尋ねた。
「両肩を外してやって油断したところを手を抜くなと食いちぎられた。止血に手を当てていたら反対側もやられたから両足をおって転がしてやった。顎も外したが、おとなしくすると約束したからそっちは嵌め戻した。手足をへし折って肋を砕いて感謝されるとか、意味がわからんのだが、そうやっていると急に具合が良くなってきて……。入ってきてくれなかったら夜までやって本当に殺していたかもしれない」
折った足を引き伸ばし骨を継いで壊れた寝台の残骸で当て綿と添え木をして、両肩をはめるとマリールは夢心地の表情で目覚めた。
首から両肩を吊るしてやると痛みも多いはずなのに奇妙に緩んだ表情で、幸せであることを告げた。
戦場でたまにいる急激な苦痛でおかしくなった兵士を連想してセラムは眉をひそめたが、マリールは自分が間違いなく懐妊したと母になった幸せを歌うように告げた。
「よろしいのですか」
セントーラは鼻で笑うような顔でマジンに確認をした。
「今は生きていればいいよ。後のことは後のことだ」
今は脱力しているマジンとしては投げやりに答えたが、正直他にどうしようも思いつかないことだった。
マリールの学校長としての業務はしばらくセラムがソラとユエの補助でおこなうことになった。
成り行きでアミラとグルコも学校運営を手伝うことになり、それは意外と悪くなかった。
ただマリールは学校長として既に子供たちに慕われており、同じ日に両腕に怪我をして現れたマジンが関わりないとは子供たちにも感じられなかったらしく、奇妙な疑いの目でマジンはみられることになった。
それは全く理不尽であったが、故なき疑いというわけではなかった。
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