「享楽」

 おれのことだ、と思った。


 青い鳥に運ばれてきたURL。そこから聞こえてきた音たち、文字の群れは、確かにおれの今の状況を如実に表していた。コーヒーの感はそこら中に散乱しているし、好きだった女は二日前に出て行ったきりだ。


 歌っているやつは知らない男だったが、今の世の中、いくらでも情報を手に入れる手段はある。この歌は、おれをモデルにして書かれたに違いない。


 出演料をもらわなければ、と思った。高級マンションの扉をこじ開け、出てきたキャミソール姿の女を引っ張り出す。奥で警察に連絡を入れようとした男のスマートフォンを取り上げ、おれはこう言う。


「おい、お前はおれを描いてそこに転がっているワインボトルを買ったんだろう。ならば、これは全部おれのものだ。おれが手に入れるはずのものだったんだ」


 ……ひとつ息を吐く。

 満足したおれは、すまんな、と呟いて今日も目を閉じる。

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