金平糖の欠片たち。

桜枝 巧

浴槽の中で眠る

 午前二時、

 赤錆色のアパートの、

 ひとりぼっちのドアの中。


 ユニットバスに湯を張って、

 わたしは毎晩、眠っている。


 昨日の道化九つと蜂蜜小さじ一杯を、

 とろりと湯に溶き、眠っている。


 非凡は眠る。異常は眠る。

 アイデンティティを抱きしめて。


 三十九度の温もりは指先だけを老けさせて、

 わたしを殺しちゃくれないが、

 奇人の殻を与えてくれる。


 特異はわたし。

 わたしは特異。


 個性は誰がつくるのか?


 午前二時、

 赤錆色のアパートの、

 ひとりぼっちのドアの中。


 ただの私は、

 浴槽の中で眠った、

 夢を見る。

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