温泉施設
こんな夢を見た。
某SNSで見掛けた温泉施設に、友人数人と行くことになった。
写真を見ると、テーマパークのような仕掛けや装飾が沢山ある数階建のビルで、階毎に風呂上がりに貸出しされる服や部屋のデザインが異なるらしい。
下の方の階では着物やどてら、浴衣などごく普通の着物類だが、階が上がるにつれて軽装になっていき、最終的には一枚襦袢らしきものを羽織るだけになるという。その更に上の階の写真を見ると、服の代わりに首から上が無くなった人々が、列に並んでエスカレーターを降りていた。なるほどこれ以上は着る物は減らすことは出来ないから、代わりに頭が消えたものらしい。
全く知らない誰かはその呟きの最後で、屋上からエスカレーターで降りてくる人々の写真も載せていた。土産物屋で売られている安物とは異なり、素人にも一目できちんとした造りのものだと分かる美しい和傘を差しており、頭の部分が隠れているためどうなっているかは分からない。
呟きの主自身も、屋上までは行かなかったのでどうなっているのかは知らないようだった。最後の階ではどうなっているのでしょうね、という意味深にもとれる一言と共に、写真だらけの呟きを締め括っていた。
実際に足を運ぶと、まずはその施設の大きさに圧倒された。
一階の男女揃って豪奢な着物を着てみたいという友人と別れ、一先ず全ての階を見て回ることにする。
SNSで見た通り、階が上がるにつれてテーマが変わり、貸し出される衣装も軽装になっていく。襦袢の階も一通り見て回り、いよいよ首から上が無くなると言われていた階へ上るエスカレーターの前まで来たところで、少しばかり躊躇ってしまった。まだ温泉を利用していないので首が無くなることは無いはずだが、それでもその階に足を踏み入れることで何か体に異変が起きるのではないかと不安になる。
丁度自分の他に、施設のことをよく知らずに来たらしいオッサンがエスカレーターの近くまで寄ってきた。うまいこと言い包めて自分よりも先にエスカレーターに乗ってもらい、その後ろから様子を見つつ上の階へ向かう。
幸いにして自分もオッサンも何事も無く辿り着けたため、心の中でそっと詫びつつ、少し進んだところで行動を別にすることにした。
頭が無い人ばかりの階は、どうやら「獄門打ち首」がテーマであるようだった。真新しい旅館のように綺麗な廊下の壁に、江戸時代のものらしい拷問器具や刀が飾ってあるのがひどくアンバランスに見える。
首無し階を一周してエスカレーターへ戻ってきたところで、上から降りてくる友人とばったり会った。
一階で別れたはずの友人は、いつの間にか入浴も散策も自分より先に済ませたらしい。派手な色合いの着物が長身によく似合っていた。この直ぐ上がいよいよSNSでも語られていなかった屋上なのだと言う。良いところだったよと言って一足先に下へと向かう友人の言葉を信じ、折角ここまで来たのだからと屋上へ向かうエスカレーターに恐る恐る足を乗せた。
思ったよりもあっさりと辿り着いた屋上は、古い商店街か観光地の小店通りのように、古風な造りの店がずらりと奥まで並んでいた。
雰囲気は漢字によく似てはいるものの得体の知れない文字で書かれた看板がどの店にも掲げられており、煎餅屋や薬屋、射的や飴屋など様々な店が続いている。中にはデパートの屋上によく置いてあるような、百円玉で動くレトロなデザインの遊具だけが並ぶ店もあった。
恐れていた体の変化はなく、行き交う人の首から上もきちんと存在しているが、時折見たことの無い姿の人々と擦れ違った。店番をしている手長や足長の手足に躓くのではないかとヒヤヒヤしながら、団子屋の前を通り過ぎる。
バス停によく似た看板の脇で、バスではない何かを待っている人々を道の向かい側から眺めながら歩いている。その中にゴリラや銀色に光る細長い頭の人が混ざっているのを見た自分はふいに、この階のテーマはきっと未来なのだろうと確信を持って悟った。
未来がこれだけ多様性に満ちているのであれば、きっと自分程度の人間はさぞかし生きやすい世の中になっていることだろう。そう思ったところで、そういえばまだ肝心の風呂に入っていないことに気付く。
結局どの階で風呂に入ろうかとぼんやり考えながら、時間が無くなりつつあるにも関わらずに、通りの奥へと足を進め続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます