彩命のイクサ -Pieces of Iris in Your Dream-

青海イクス

序 - It's Nameless Dream -

序 -詩篇より-

 太陽が遂に姿を見せた――しかし悲しいかな、おれの眼はめくるめいて、光を見る痛みに堪えかねて面をそむける。

 切なる希求が最高の目標に快く迫り行き、実現の門戸が広々と打開かれる時は、恐らくこのような時であろう。

 しかしかの永遠の深みの中から、すさまじい炎が噴き出てくるので、われわれはおそおののいて立ち竦んでしまう。生命の松明たいまつに火を点じようと思ったのに、火の海に取囲まれてしまう。


 しかし、なんという火だろうか。

 燃えさかりつつわれわれを取り囲み、苦悩と喜悦とを代るがわるに投げつけて、そのためにわれわれはまた眼を伏せ、緑の草地に身を隠す。

 その光耀は、愛か、はた又、憎しみか。


 おれは太陽に背を向けてしまおう。


 岩礁を縫って滾り落ちる滝を見ていると、なんともいわれぬ恍惚感が高まってくる。

 滝は流れ落ち、滾り落ちて、幾千とも知れぬ流れを作り出しては、空中高く水しぶきを揚げてどよめく。

 この流れから生れ出て、弧を描いて空中に懸かる色どりも千変万化の虹の橋の、ある時は鮮やかに、またある時は空に消えて、あたりに匂やかな涼しい霧を撒き散らす有様はなんとすばらしいではないか。


 虹は人間の営為を映し出す鏡だ。

 虹を見れば、人生とは色とりどりの影にすぎぬということが、よくよく納得できるはずだ。


From『FAUST(vol.Ⅱ)』

Johann Wolfgang von Goethe

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