第37話 ヴェルナの刺客・後編
日光が射さず、微風もしない森に囲まれたエリュトロスの町のはずれ……――。
金髪の男女の二人組と黒髪ロングヘアーの女が火花を散らし対峙している。
ヴェルナの刺客である10メートル級の巨人を倒したフレッド。防壁を出てからの戦闘時間はおよそ58秒、なんと彼は二手目にして奥の手を使い、秒殺で勝負を決っしたのだ。
しかし、
「なるほど……さっきの技で
ヴェルナは下唇をかむ仕草をしながら、右手に持つ蛇腹剣を地面にたたきつけた。
「2対1……、これであなたに勝ち目はございませんわよ……?」
ダフネは再度、目の前の白コートの悪女に警告を
「ハッ……相方は大分へばってるみたいだけど、あたいとやろうってのかい!?」
ダフネが後方のフレッドに目をやると、そこにはぜぇーぜぇーと肩で息をして、滝のように汗をかくフレッドが寝そべっていた。彼はスキルの連発により、エネルギーゲージをマイナスにしてペナルティを受けてしまっていたのだ。
「ごめんダフネちゃん、ちょっと休憩させて……」
フレッドは汚いお尻を突き出し、地面にあごをこすり付ける体勢でダフネに
(ブレイジング・エンドが全エネルギーを消費するのを忘れてたぜ……バーニング・ソードの後すぐ撃っちゃ不味いよなぁ)
ダフネはひきつった笑顔で、フレッドに対し無言でコクッとうなずく。
彼女にとって試合形式では幾度となく経験してきた女同士の対決。自慢の金髪縦ロールの毛先に至る、全身の神経を研ぎ澄ます。あくまでも参考までだが、ダフネとヴェルナとのレベル差は3の違いしかない。
(ダフネ・ヘイズ……こいつのデータは取れている。
ヴェルナの目算では7:3で自分に優位があると読んでいるようだ。
とはいえ
ダフネが左足を前方に半歩出し、ジリジリと間合いを縮めようと画策する。
「フフンッ……あんたが化けガエルの能力を持ってるのは知ってるんだよ?」
高みから挑発するヴェルナは、まさにカエルを睨む蛇といった所だろうか。
「わたくし達の事を色々探っていたみたいですわね……?」
スミレのような紫色のアイシャドウをまわりに塗った眼が、ダフネの心を見透かすかのように、目の玉をギョロっとさせた。
「現在のエリュトロスの戦力は……上から順にトラヴィス・レイカー レベル31。 ダフネ・ヘイズ レベル28。
すると、ヴェルナの口から次々にフレッドの仲間の名前が読み上げられていった。
「そして……この町のリーダー、フレッド・バーンズ レベル22」
どうやら巨人を倒した際に、フレッドのレベルが1つ上がっていたようだ。
「この4人だけでコチラと真っ向勝負しようってのかい?」
「あなた方〈デスイレイサー〉が大所帯である事は存じておりますわ」
負けじとダフネは右手を腰に添え、ふんぞり返っているヴェルナを
「それでも、わたくし達は悪には絶対に屈しませんことよッ!!」
すかさず左手からスティッキー・ウィップを射出し、無防備のヴェルナに対し先生攻撃を仕掛けるダフネ。
「〈ヴァリアント〉、アングィス・バイター!!」
後手に回ったヴェルナは左手を白い毒蛇に変えて、紅色の鞭を勢いよくからめとった。この技は以前、トラヴィスが一度見せたことのある攻撃スキルである。
「大見得を切った割には、しょうもない小細工じゃないかい……?」
嫌味をたっぷりと込めて、右手で3枚の葉っぱをダフネに自慢げに見せびらかす。 先ほどの攻防で、ダフネは鞭を囮にして、鋭い葉をナイフのようにしてヴェルナに向けて投げつけていたのだ。
「能力2つ持ちはやっかいだねぇ、まぁその変型も大したことなさそうだけど」
ダフネは少し悔しそうな顔をして、こめかみにしわを寄せる。
「そういえば、ファンフロント・ダートは昨晩のドローンを撃ち落とすのに使いましたわね……」
かつての透明化したドローンが脳裏に浮かんだ時、ダフネは周囲に不穏な影を感じとった。そして、その一瞬の気負いが小さな隙を生む。
「危ないッ! 銃で狙われてるぞダフネちゃん!!」
突如としてダフネの背後に出現したのは、機体の下部にアサルトライフルを装備した戦闘ヘリの風体をした中型のドローンであった。それは姿を見せるなり急に発砲し、ダフネに20発以上の凶弾が雨あられと飛ぶ。
「ぐぅ……!?」
彼女は振り向きざまに弾丸を全身に浴び、少なからず傷を負ってしまう。
常人の十倍以上の身体能力をもつ〈寄宿者〉でも、ライフル弾によるダメージは痛感するのが必然。また敵のドローンは射撃の反動を吸収する特殊な装置を搭載しており、その照準は正確なレスポンスを可能とした厄介な相手である。
「ククッ、あたいが一人しか居ないと思って油断したみたいだねぇ……?」
ヴェルナは右手を大きく空にかざす。
すると見る見るうちに、刃先がノコギリの様なギザギザのギロチンの様な形をした恐ろしい武器に、その右手をアクティブ・スキルで再構成した
「〈ボアテイル・ザンバー〉……あたいが取り込んだナーガの特性は、絞め落とした獲物の首を斬り殺す鋭利な尻尾をしているのさ」
ヴェルナはそのギロチンを舌で舐め、縦長の瞳孔が拡大しダフネに襲いかかる。
「……覚悟はいいかい? これでその生意気な頭を分断してやるよォ!!」
鈍い光沢のあるメタリックな鱗のコンストラクトで禍々しいオーラを放つギロチン。それを右腕から生やして、まるで死神を連想させる程におどろおどろしい。
対するダフネは前かがみで、顔を地面に向け弱っている状態だ。もはやヴェルナの勝利は火を見るより明らかだったのだが……――。
「〈ヴァアント〉、ドリュアス・ランサー!!」
ダフネは左手から〈ロゼットドリアード〉の必殺技の一つである、樹木を操る能力で欧州の騎兵が持つ『突撃槍』を具現化したのだ。その全長は2メートル前後あり、形は
ダフネに斬りかかったヴェルナは、腹部に槍の先端が刺さり反撃を受けていた。
「バカな……、あたいの方がやられるなんてッ!!?」
思わず両目を左手で覆っていたフレッドは、ホッと安堵のため息を漏らす。
「やられたフリをして前傾姿勢で体重をかけていたのか……ヘヘッ、彼女は槍の扱いも1級品だな!」
だが吐血し醜態をさらしているヴェルナは、開き直ってニヤリと不気味に笑う。
「
「そいつらは………………1000体のオートマトンさッ!!!」
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