第3話 リスポーン地点

フレッドとアップルは手を結び決意を新たにする――――。


 立ち話も疲れるので二人はフレッド宅に向かうために、ゆったりと帰路につく。

 歩道を通行する過程で数人の一般人とすれ違う、その都度に人々がアップルの方をジロジロと見ていた。


「お前の衣装なんとかならねぇの? めっちゃ気まずいんだけど……」

「何を言うか、うつけ! この服から今にも神格化しそうな気品がワシから漂うておるじゃろ!」

 アップルの服は後ろから見るとお尻も半分露出していて刺激がかなり強い。

(こいつ身長は低いのにケツはやたらデカいんだよな……)


背丈が140cm程しかない彼女のヒップは、おおよそだが84㎝はある。

「何じゃオヌシ……いやらしい目つきでワシを見おって」

「ちッちげーよ、俺は生粋のおっぱい星人ですー! 残念!」

「本当に保安官なのか疑わしいのぉ……ヤレヤレ」


(それにしてもさっきから町を見渡すたびにうっすら違和感がする……)

 フレッドはしっくりしない理由を思案しながら、ふと小さな食料品店の一角に目をやると、妙な人だかりができている事に気づく。

「棚に何も並んでないのにあの人達どうして集まってるんだ?」

「もうすぐ夜の9時か……まぁ見ておれ」

 悲しいことに常に暗い曇り空のこの世界では、時間の経過を体感しづらい。


(――ッ!? 肉や野菜が突然ズラッと増えやがった!)

 十人ばかりの客はその膨大な食料をカバンなどに詰め込み始めた。

「一日のうち6時、12時、21時の3回に分け様々な店で物品が補充されておる、あのように金など不要じゃ」

 そそくさと大量の荷物を持って帰宅する客と次々にすれちがうフレッド。


「……はッ、そうか!! 引っかかていた謎が解けたぞ!」


 街並の外観自体は彼が現実世界にいた頃となんら変わってはいなかったが――。

「俺の知っている町の人が一人たりともいない……。よそ者ばかりだ……」

「気づきおったか。おそらくこの完全再現された電脳世界の町で、元の世界と同じ家に住んでおるのはオヌシの親父殿だけじゃろうな……」

 フレッドは気持ちの整理をつけようとしばらく無言になり下をうつむく。


「俺の予想だけど、このゲームに参加してるのは本人の意思とは無関係に集められた人間……それも普段ゲームとは無縁の人も含んでるって感じか」

「ふむ、良い線をいっておるぞ。ちなみにこの町の住人に限定するなら肉入りとNPC、3:7の割合といったところかの」

 肉入りとは生身のプレイヤーを意味する。NPCはノンプレイヤーキャラクターの略称、つまりは人工AIである。


「一度死んでリスポーンすれば自分の家に飛ばされるってわけでもないのか?」

「それがバグによって起きた現象の一つじゃ。本来なら死んだ地点から一番近いセーフティエリアに飛ばされる仕様になっておる」

「ここだけが安全地帯のバリアが張られてるわけじゃないって事か……」

 会話に熱が入ってきたところでフレッドが指をさす。


「ここが俺の家だ、女の子を連れてきたのは彼女のモニカを入れて二人目だな」

 (モニカは今どうしているだろうか……安全地帯の話を聞いて複雑な気分になる)

「なんじゃ恋人がおるのか。オヌシも隅に置けぬのぉ~」

 にやけた顔でアップルが右ひじで彼の腰の部分をツンツンとつつく。フレッドはめんどくさそうな顔で玄関の扉を開ける……と見慣れぬ大男が目に映った。


「おう……この日本人は『仮想世界』で住む場所に困っててな、1週間くらい前から一緒に同居してるんだ。」

コーディが説明すると、アラフォーのごつい日本人はフレッドにお辞儀をし低い声で自己紹介をした。


「…………灰賀 明人はいが あきとという、地上がこうなる前は日本でガデン系の仕事に就いていた。以後、お見知りおきを……」

「仏頂面じゃが、良い筋肉をしておるのぉ~気に入ったぞ! ふぉっふぉっふぉー」

「なんだおめぇ……女の趣味ずいぶん変わったな」

「いや……これはそういうのと違うんだけど」


 ややこしくなりそうな雰囲気を察して、フレッドは慌ただしく彼女を2階の自室に連れ込む。


「面白味のない部屋じゃな。おまけになんかイカくさ……」

「勝手な憶測で物言うのやめてくれるー!?」

 そこら中にフレッドの趣味であるアニメのポスターやテレビゲーム関連のグッズが散らばっている。


「とりあえず俺がもらった能力とかゲームの目的とか、その辺詳しく教えてくれ」

「そうじゃな、まず『寄生虫』は死体にしか宿らないとオヌシが世話になった研究所の博士から言われたと思うが……あれは嘘じゃ」

 アップルの顔を食い入るように見て、一語一句聞き逃さずにいるフレッド。


「実はプレイヤーは〈寄宿者ホスター〉という、生存者のままでアンデッドの能力を寄生虫ごと体内に吸収できる能力者。少々気持ち悪いがそんな性質が備わってる設定なのじゃよ」

 フレッドは嫌な予感がして首をかしげ、恐る恐る聞き返す。

「なぁ、もしかして俺が食ったリンゴ…………寄生虫入りとか……?」


「うむ」

「ヴォエええええぇぇぇぇぇぇーッ! だましたなロリババァ!」

「あのピンチの時〈ヴァーミリオンバード〉の力を使わねば、不死物危険度D+の〈ヘルハウンド〉にすらヤラれておったのは事実じゃぞ?」

「ウッ、D+……俺が倒したのは所詮ザコだってことか……」


 不死物危険度とはアンデッドの強さランクであり、〈寄宿者〉は自分が倒したC-~A+のアンデッドの能力から最大3つまでを扱うことができる。アンデッドのように変型する特性のことは〈ヴァリアント〉といい、このゲームの中核を担うバトルシステムの要である。

また寄生虫を体内に宿した〈寄宿者〉は筋力や俊敏性、代謝能力が常人の約10倍以上に上昇する。


「いますぐ目をつぶって瞑想してみるのじゃ、脳内で今の自分の強さをステータスにして表示できるぞ」

「こういうのってSF映画みたく空中にデジタル表示されないのか?」

 不服そうにフレッドはまぶたを閉じて、ぶつくさ文句を言う。


「当面の目標はアンデッドを倒していく事と、〈パラスティック・ディサイダー〉というNPCの武装集団と戦う事じゃな」

「強いのか?そのパラ……なんとかって奴ら」

「通称〈パラサイダー〉、レベル25以上から最大レベル50までの〈寄宿者〉達を中心に構成されている組織じゃ。ストーリー上は敵対する関係になっておる」

 彼は左手の手のひらに右手の拳をパシッとぶつけて自信満々の顔で言い切る。


「俺の炎で全員返り討ちにしてやるから、まかせとけっつーの!」

「オヌシ……今の自分のレベルをまだ確認しとらんのか……?」

 フレッドは目をゆっくりと開け、予想をはるかに下回るといった表情をした。


「レベル……3、えっコレ…………」

「はぁ……オヌシには死ぬほどレベリングしてもらうぞ、覚悟せよ?」

 がっくりと肩を落とすフレッドに、アップルは情心でフォローを入れる。


「このセーフティエリア内におれば食料には困らぬし、電気だって通っておる……じゃがそれが落とし穴になってしまってな」

 彼女はしょぼくれた顔をするフレッドの目の前まで顔を近づけて説きすすめる。


「よいかッ、外敵のレベルがなまじ高いだけに、現段階で9割以上のプレイヤーがさじを投げておる状態じゃ。」「つまりはクリアを諦め、アンデッドが襲ってこない安全圏で引きこもってしまって戦う気力すらないに等しい」


「オヌシには逆境に立ち向かえる勇気と度胸がある。ワシはそんなオヌシを見込んだからこそチートを与えたのじゃ。万能ではないが最強になりうる能力……オヌシなら使いこなせると信じておる」

 発破をかけられた彼の瞳には少しずつ闘志がわいていた。


「まぁ今日はもう休め……、ぐっすり寝るのじゃぞフレッド――」

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