ピンクスリップ
五分後。
「ほら、やっぱり私がいたほうが盛り上がる。来て正解だったでしょ」
「店放ったらかしてご苦労なことで……」
牧島先輩と苑浦が追いついてから、俺達は楓姉さんの鶴の一声で近くのカフェに移動した。テーブルには地図や飲み物が置かれ楽しそうだが、俺達の間には何ともいえないカオスな雰囲気が漂っている。苑浦は相変わらず不機嫌な面だし、牧島先輩はソファの片隅で居心地悪そうにモジモジしていて、瀬雄はというと…。
「何だよそのツラは」
「フッフッフ。睦、僕がここまで如何様にして来たかわかるかな? 」
「そうよ!アンタ、どうして…」
反応したのは牧島先輩だった。あれれ、と俺も思い返す。偉そうにふんぞり返ってるけど、コイツまだ仮免だから高速は乗れないはず。
「いや~私もびっくりしたよ。まさかチャリで東名ぶっ飛ばす人がいるなんてねぇ」
楓姉さんの笑い声が全てを物語った。
「……あなた正気? 」
「これくらい大した事ないよ。トラックに二回くらい轢かれそうになったけどね」
ジト目でにらめ付ける苑浦もなんのその、さらりとヤバい発言で返すミスター・タフガイ。弱×ペダルも真っ青だな。
「んじゃ、そろそろ行くか。こっからまだ結構距離あるし」
「そうね。あまり長くここにいても意味ないし」
「おやおやお二人さん、もう少しゆっくりして行きましょうよ」
俺と苑浦が立ち上がろうとした所を、楓姉さんが両手で制した。よく見るとその瞳には悪戯心が宿っている。また何かよからぬことを思いついたらしい。
「ねぇ皆、ただ目的地に行くだけじゃつまんなくない? 」
「僕もこれ以上ペダルを漕ぎたくないなぁ」
わざとらしい楓姉さんの素振りに、瀬雄が夫婦漫才並のタイミングの良さで応じる。
「じゃあどうすんのよ? 」
ちょこんと首をかしげた牧島先輩に、我らが冒険のリーダーはにっこりと笑って答えた。
「ちょっとゲームでもしてかない? 」
指差したのは、すぐ向かいのゲームコーナーだった。促されるままに俺達が入ると、楓姉さんはコレ!とある筐体の前で足を止めた。
「これは……」
思わず苦笑する瀬雄。目の前には運転席を模した椅子に、大型のスクリーンを据え付けたマシンが横一列に並んでいた。画面にはレースのデモ画面が映されており、どうやら通信対戦が可能らしい。そのゲームとは、
「『湾岸クラブ』? 」
俺と苑浦の声がハモる。そういえば中学ん時にクラスで盛り上がってたな、通称湾クラ。「天使のR」と呼ばれる日産・GT-Rに取り憑かれた若者を描いた漫画がベースのレースゲームだ。
「ルールは簡単。レースで一位になった人から順に、今日のゴール地点までメンバーの車の中から好きなのに乗れる権利を持てるわ」
楓姉さんが言い終わるよりも先に、生徒会組二人は同時に百円玉を入れた。どうやら従わざるを得ないので俺も椅子に座る。
「馬鹿馬鹿しい。こんな子供の遊びやってられないわ」
ただ一人、苑浦だけを除いて。が、牧島先輩のほうが一枚上手だった。
「へぇ~、逃げるんだ。自動車部さんとやらが車のレースから」
「逃げる? 」
苑浦の声に、わずかだが凄みが増した。
「いいわ、腕の差を思い知らせてあげる」
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