第3話

∇∇∇


 最初の授業はどうやら、国の歴史についてのようだった。

 先生が、壇上に立つと話を始めた。


「では、今日の授業は編入生もいることですし、今までの授業のおさらいを軽くしましょう。」


 先生は、そう言うと黒板に大きな紙に書いてある地図を貼り付けた。


「ここがこの国、リーヴェルですね」


 中心にある国を先生が指差す。


「この国の始まりはいつからですか? ソルゲアさんお答えください」


「はい、二百年前です」


 うろたえることなくセンドリックが答える。センドリックの答えに先生が満足そうに頷く。


「では、初代国王の名前は? ルフォスさん」


 今度は先生がキースを当てた。


「……」


 返事がない。

 先生はキースの状態を見るとハァとため息をついてヒューバレルに頼んだ。


「……、アスウェントさん起こしてください」


「はーい。ほら、起きろキース」


 そう言ってヒューバレルが幾分か乱暴にキースを揺する。


「う……、え、何?」


「初代国王の名前」


「あー、賢王アルベルトでしょ」


 さらりと答えてまた顔を伏せてしまった。


「……、正解です。では、少し深く見てみましょう。今のこの国は、二百年前に正式に建国されました。その前まではリーヴェル国ではなく、ナルフエルと呼ばれていました。ナルフエルの最後の王のトルネイは、悪政を敷いており、国民は飢え、生気を失っておりました。当時、トルネイの庶子であった賢王アルベルトは民をまとめ革命を起こしました。そしてトルネイを処刑し、自身が王の座につくこととなりました。そして、革命の時に賢王アルベルトに尽力し彼を支え続けたのが、今の六公爵家。“民のルフォス” “薬のネローア” “護のソルゲア” “あきないのアスウェント” “武のフィラローガ” そして、“山のウェストル”。この六公爵ですね。ご存知の通り、この教室にもこの六家のうちの四家の方々がいらっしゃいますね」


 先生が私たちを手で示す。他の生徒の視線がチラリと私たちの方を向いてまた戻った。


「まあ、簡単なさわりはこんなものでしょう。では、今度はこの国の一番の特徴を答えてもらいましょうか。ウェストルさん、どうでしょう?」


 うわ、当てられた。……特徴か。この国には大きな特徴が一つある。


「この国で生まれ育った人は、精霊と契約ができます。精霊と、契約することで術式を書くことなく魔法を使うことが叶います」


 答えると、先生がにっこりと笑顔見せてくれた。


「正解です。理由などは言えますか?」


「はい。初代国王が精霊女王の愛子であったため、女王さまのご慈悲により民達が恩恵を受けることとなりました」


「そうです。愛子は、今までもこれからも賢王アルベルトだけであると公言したとされる女王の言葉は記録に残っています。そして、精霊については賢王が女王に願い出たわけでなく、女王自身が賢王の治める国をよくしたいと心から思ったため、配下の精霊達が協力的になり、この国に生まれ育った人と特別な例の人に限り精霊と契約することができるようになったと言われております」


 そうなのだ。周りの国にはなくて、この国にだけあるもの。それは精霊との契約である。

 他の国では術式を書き、発動させる。しかし、この国に生まれ育った人は精霊との契約により術式は必要なく、必要なのは精霊との信頼関係と自身の想像力、コントロール力だけである。

 精霊の属性は六つあり、炎、風、水、土、光、闇の六つだ。精霊と契約するにはこの国の生まれと育ちであれば、特に何もする必要はない。日常生活の中で、相性のいい人を精霊が探し出し仲を深め、契約に至るのが普通のことである。

 子供の頃に契約し、魔法の訓練が始まる。それが普通の流れだ。私のように家庭教師を雇う余裕のある家庭なら雇ったり、学校に通わせたりするのが当たり前のことである。

 精霊と契約といっても、一人に一体、一属性の精霊というわけではない。精霊が気に入れば何体でも契約することができる。しかし、大体は一人に二体二属性、もしくは二体一属性。多い方だと、三体三属性、二属性、一属性か、四体で同じようなのが多い方だ。稀に出るのが五体である。二十年だか、三十年に一度と言われる人材である。

 そして、伝説級。賢王しか出したことがないのが、六体六属性だ。

 王家は賢王の血を受け継いでいるからなのか、大体が三体か四体だ。五体も大体が王家から出る。

 

 そして不思議なことに、闇の精霊は人と契約するときに他の属性がいると契約をしようとしない。または、他の属性の精霊が自身の契約者に契約を持ちかけると契約者にどちらかを選ぶように言うのだ。このまま他の精霊を受け入れ、自分との契約を破棄するか、このまま持続して闇の精霊だけを受け入れ続けるか。

 大抵の人は破棄する方を選ぶ。なぜなら闇の属性はできることが少なく、あまり役には立たないような魔法しか習うことができないからだ。

 例えば、“幻影”。人にそこにはいないはずの人や物を見せることができる。しかし、その映像は術者自身の想像力とコントロール力に精度を左右される。下手な人は幼児が描いたような絵を映し出すし、上手な人は精巧なそのものを人にもせることができる。

 他にも、“精神安定”と言うものがある。パニックや不眠症などによく効く。緊張や混乱を沈め、平常心または心地がいい状態にすることができる。次の日が遠足で眠れない幼児にかけてやると、即座に眠りに誘うことができる。

 大体こんなものだ。あまり役に立つとは言えない魔法ばかりを習うことになるので、他の属性が来たら大抵の人は契約を破棄してしまう。

 闇の精霊とずっと契約を続けているのは、他の属性にお誘いがなかった人かもしくは医師関係の人が多い。医師の人は大怪我をした人が出たときに使うと便利だとよく聞く。または警備兵や、騎士団にも稀にいることがある。騒ぎを収めることができたりして便利らしい。あとは芸術関係も意外といたりすると言う。

 また、範囲や強さは精霊との信頼関係の厚さに左右する。信頼が厚い人は半径一マール※1以上の圏内の人にかけることができたりするが、信頼が薄い人は半径一マルトル※2も行かないと言う。

 信頼度と想像力とコントロール力は他の属性の魔法にも同じことが言える。

 

 しかし、この一から四体の何属性かと契約できるという法則は、六公爵家には当てはまらない。

 それぞれの公爵家の血筋である人は、一人につき特定の一属性としか契約できないようになっている。一から四体である数には変わりはないが、属性は必ず一属性としか契約できないのだ。

 これはあまり民には知られていないことだが、ルフォス家は光、ネローア家は水、ソルゲア家は土、アスウェント家は風、フィラローガ家は炎、ウェストル家は闇、といった具合にしか契約できない。そもそも他が寄ってくることが少ない。他の貴族たちには、そういう祝福を女王から血筋に賜ったとしか伝えられていない。

 しかし六家と王家しか知らない事実がある。


 各家の初代当主たち、つまり賢王と共に戦った人たちがそれぞれの属性の精霊の血を飲んだ、というものだ。


 王家と各家に置いてある伝記がある。これは各当主や賢王が書いた、自伝のようなものである。そこに書いてあることによると、女王の愛子だった賢王を守るため、各属性の精霊が各家の当主に話を持ちかけた。


「お前たちは、自分の君主のため、私たちは女王さまの御心のために」


 当主たちは、話を受け承諾した。

 その精霊たちによると、他の属性との契約ができなくなるが、その分精霊しか使うことが叶わなかった各属性の魔法を使うことができるようになる、と。

 その魔法は精霊から直接教わることにより使うことができるようなる。

 そしてその魔法は危険なあまり、前または現当主とその精霊の許しが得られない限り、契約者に教えられることはなく習得することができない。そもそも、存在を教えられることはない。

 かくいう私は前当主である、亡くなられたお爺様とその精霊に許しをもらいその魔法を習得した。

 確かにその威力は、危険視されるのが頷けるものだった。きっと他の公爵家もそんなものなのだろう。他の家のことはよく知らない。




 ※1 1マール=1キロ

 ※2 1マルトル=1メートル

 

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