106話
「せっかくだけど今日は……」
「まぁまぁ、そう言わずに、色々聞きたい事もあるしさ~」
「え! ちょ、ちょっと!!」
断ろうとした綺凜を料理部の面々は背中を押して、そのまま自分たちの部屋まで連れて行く。
そんな綺凜と料理部の後ろを美沙もついて行く。
「ちょっと~受付しないとダメでしょ~」
「そ、それは私が……」
「あ、えっと…千春ちゃんだっけ?」
「はい……私がやっておくので、先に行ってください」
「え、本当に? 頼んで大丈夫?」
「はい……私も後で行きますので……どうぞお先に」
「そう? じゃあ、先にいくね」
そう言って、美沙も綺凜達に続いて言った。
千春は、ため息を一つ吐き、順番待ち用の椅子に座ってつぶやく。
「……修羅場にならなきゃ良いけど…」
彼女はその場をあまり動く気にはなれなかった。
*
「たっだいまー! 志保、沙耶香!」
「遅かったわね? ちゃんとウーロン茶持ってきてくれた?」
「持ってきたよ、はい!」
「……うん、ありがとう……その前に聞いても良いかしら?」
「どうしたの?」
「なんで和波が山瀬さんを持ってるの?」
和波は片手に頼まれたウーロン茶を持ち、もう片方の手で山瀬さんの腕を掴んで持っていた。
その様子を見て驚いたのは、志保だけではない、一緒に居た沙耶香も驚きのあまり言葉を失い、口をぱくぱくさせていた。
「もう、置いて行かないでよ……あれ? どうしたのこの空気?」
「!! も、もしかして……さ、笹原さん?」
「ん? あ! 料理部の巨乳部長!」
「余計なお世話です!!」
後を追って部屋に入って来た美沙に、沙耶香は更に驚く。
志保は大体の状況を察して、頭を押さえて上を向きこう思った。
(なんだか荒れそうね……)
とりあえず座ろうと言うことになり、広々とした大部屋に七人の女子高生が座る。
「んで……ぶっちゃけ山瀬さんって伊敷君の何がダメだったの?」
「い、いきなりですね……」
沈黙の空気の中、そんな質問をしたのは和波だった。
志保はすぐさま由香の頭をぶっ叩き、和波の代わりに謝罪する。
「ご、ごめんなさいね~この子空気が読めない子なんです~」
「いったいなぁ! 何するのよ!」
「アンタがデリカシー無い事を突然聞くからでしょ!」
「でも、聞かなきゃいけない事じゃん! 部長の最大のライバルだよ!?」
「いきなり失礼だって言ってるの! ごめんなさいね、気にしないでね?」
気を遣いまくる志保に、綺凜は申し訳ない気持ちになってしまう。
しかし、綺凜自信もこの事はしっかり言っておかなければと思った。
「あの……前橋さん」
「な、なななな何かしら? や、ややや山瀬さん!」
「沙耶香、動揺しすぎよ……」
話しかけられただけで動揺する沙耶香に志保は静かに言う。
この二人の関係をこの場のすべての人間が知っている。
そして、沙耶香が綺凜と話すのは初めての事であった。
「彼はもう私を諦めたらしいから……その……なんて言ったら良いのかしら……」
「い、いやその…それは誠実君が決める事だし……私がどうとかじゃ……」
「でも……私たちの関係って結構難しいわ……ごめんなさい、私も貴方になんて言いたいのか……」
一向に話しの進まない二人。
そんな二人の間に、志保が割って入って行く。
「はいはい、あんまりこういう話しをしない! 気まずくなるでしょ! それに付き合う相手を決めるのは伊敷君でしょ? 私たちがいがみ合っても何もなんないわよ」
志保の言葉に、その場に居る全員が納得する。
さすがは副部長なだけあると、皆が感心する中、美沙の発言によって更に状況はややこしくなる。
「えっと……あのさ、じゃあこの際だから私も言った方が良いかな?」
「「「「え??」」」」
事情を知らない料理部の面々は美沙に注目をする。
そんな中、事情を知っている綺凜が美沙を止めに入る。
「美沙! ここで言うようなことじゃ……」
「でも、隠してるのも良くないし…あのね……」
美沙が言葉を発しようとした瞬間、沙耶香が先に言葉を発する。
「好きなんだよね? 誠実君の事……」
沙耶香の表情は先ほどとは違い、真剣だった。
そんな沙耶香の言葉に、美沙も真面目な雰囲気で答える。
「うんそうだよ、もう一応告白したし」
「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」」
美沙の発言により、カラオケの室内に料理部一同の叫び声が響く。
防音対策のされているカラオケ店で良かったと、沙耶香は密かに思っていた。
「ど、どどどどういうことよ! 部長!!」
「私も初めて聞いたわよ! 沙耶香!」
取り乱す伊智と志保。
そんな二人を沙耶香はなだめながら、訳を話す。
話しを聞き終えた料理部は複雑そうな表情で話し始める。
「まさか伏兵が……」
「伊敷君って今がモテ期なのかしら?」
そんな話し料理部の部員達がしている中、沙耶香は美沙に尋ねる。
「なんでここでその話をしようと思ったの?」
「遅かれ早かれ、バレちゃうしね……それに、負けたくないし」
一気にその場の空気が重たくなる中、千春が手続きを済ませて戻って来た。
入った瞬間の場の空気で、色々と察した千春はその場から退出しようとしたところを鈴に捕まった。
「……って言っても、私の事なんて眼中にないみたいだけどね……意識されてる沙耶香さんの方がリードしてるかも」
「ふぇ……な、何を……そ、そんな意識なんて……あぁ、でも……」
「あ、でもこの前デートしたっけ」
「はいぃぃぃ???」
一気に沙耶香の表情が曇る。
自分が知らない間に、誠実が他の子と二人っきりで何かしていたと思うと、沙耶香は胸の中がモヤモヤした。
「い、いつですか!!」
「この前の土曜日、勉強しに図書館行ったら偶然見つけて、そのまま一日一緒だったよ」
「い、一日……」
「部長!!」
美沙の言葉を聞いた瞬間、沙耶香はゆらゆらと倒れてしまった。
それと同時に、美沙はもう一つ思い出した事を口にする。
「あ、そういえば古賀さんだっけ? 土曜日に誠実君の友達と一緒に勉強してたよね?」
「え、え? い、一体……何の事かしら?」
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