80話
バイキングの時間がどんどん少なくなり、誠実たちはラストスパートに入っていた。
「健! あと何分だ?」
「10分だ、そろそろデザートの方に行こう」
「いや、俺はそろそろギブ……」
「誠実、お前はラーメンなんか食うからだ!」
誠実たち三人はバイキングの元を取るため食べまくっていた。
月曜日という事もあり、誠実たち以外の客は少なかった。
「ふぅ~……食った食った……」
「時間も丁度良い、元は取れただろう」
「ラーメンなんて食うんじゃなかった……」
誠実は完全に後半からペースが落ちてしまい、健や武司より食べることが出来なかった。
「少し休憩してから出ようぜ、腹が重くてうごけねぇ」
「そうだな、ドリンクバーは時間無制限のようだから、落ち着くまでゆっくりしよう」
誠実達三人は、椅子にもたれ掛かり、力を完全に抜きリラックスする。
そんな中で、健が誠実に尋ねる。
「それで、誠実は実際どっちが好みなんだ?」
「は? どっちって?」
「んなもん決まってんだろ? 前橋と笹原の事だよ」
健と武司に言われ、誠実は考える。
どっちが好みかと言われても、正直困ってしまう。
今まで友人としか思っていなかった沙耶香と、出会ったばかりでまだ何も知らない美沙では、比べる事が出来ないし、正直まだ恋愛対象として見れない。
「ま、誠実的には沙耶香じゃねーの? 巨乳だし」
「武司、いい加減沙耶香に怒られるぞ」
「だが、好きだろ? 巨乳」
「まぁ……大きいのは良いよな…」
誠実は沙耶香の胸の感触を思い出しながら、健と武司に言う。
しかし、それは性癖の話であり、恋愛どうこうといった話とは違う気がする誠実。
「まぁ、確かに前橋も良いが、笹原もそこまで悪くないだろ? 胸も標準だし」
「その胸基準やめろ」
健の言う通り、美沙の胸も沙耶香ほどではないが普通にある。
スタイルだけで言えば、美沙の方が手足が長い上にシルエットがほっそりしているので、スタイルが良い感じがする。
「まだ答えなんてだせねーよ。それに、そんな基準で決めるのはなんか違う気がする」
「選べる男は言う事がちがうね~、俺なんて告白されたことすら無いのに……」
「気を落とすな武司、お前にもそのうちいい相手が見つかる」
「ほ、本当か健?」
「あぁ、十年後に婚活パーティーとかで」
「それじゃ意味ねーんだよ!! 俺は青春時代の今! 彼女が欲しいんだよ!!」
大声で言う武司の言葉に、店の女性店員はクスクスと笑っていた。
「落ち着けって、俺たちの青春時代は始まったばっかりだろ?」
「そうだ、まだ入学してから三カ月しか経っていない、それにもう少しで夏休みだ」
「た、確かに! そうか……確かにまだ俺たちは高1! 周りがモテるから焦りすぎてたぜ!」
すっかり元気になる武司。
しかし、誠実は夏休み前に何か忘れていることがある気がして、思い出そうと頭を悩ませていた。
「なぁ…夏休み前に、すごく面倒な何かが無かったか?」
「面倒なのは夏休みの宿題だろ?」
「いや、それ以外に何か………あ」
そこで誠実は思い出し、顔を青ざめる。
「こ、今週の金曜から……テストだ……」
「「あ……」」
それを聞き、誠実達三人は一気に顔を青くしフリーズする。
「やべぇぇぇ!! 全く勉強してねーぞ!」
「最近は誠実の周りが騒がしくて、それどころじゃなかったからな……」
「お、俺のせいかよ! 俺だって勉強なんかしてねーよ!!」
三人は一斉に鞄から教科書を取り出し、テストの範囲を確認し始める。
「おい! 数学ってどこからどこまでだ?」
「てか、誠実は前回のテスト学年一位だろ! 勉強教えろ!」
「あの時は、山瀬さんが頭のいい人が好きって言うから頑張っただけで、俺は基本バカだよ!」
満腹になった事をすっかり忘れ、誠実たちはテスト範囲の確認をする。
時刻はすでに21時を周り、誠実たちはとりあえず店を出る。
「やばいぞ! 赤点あったら、夏休みに補習だろ? 俺の青春が!!」
「武司、落ち着け! 確か赤点は40点以下だ! つまり、全教科41点を目指せば行ける!」
「今から間に合うのか?」
「明日から勉強会だ! 健の家で!」
「なんで俺の家なんだ?」
「お前の家が広いからだよ!」
わーわーと焦って対策を練る誠実たち。
次第に落ち着きを取り戻し、とりあえず明日から頑張ろうという事になり、解散する誠実たち。
「誠実!」
「ん? どうした?」
別れ際に健が誠実に声をかける。
無表情の健だが、その目はどこか心配しているような感じだった。
「噂は俺たちが消す、だから……何を言われても気にするなよ?」
「おう! 任せとけ、それに言うだろ? 人の噂も六十五日(ろくじゅうごにち)って!」
「武司……それを言うなら七十五日(しちじゅうごにち)だ、十日足りない」
「どっちでも良いんだよ! とにかく心配すんな!」
そんな二人のやり取りを見て、誠実は笑う。
随分心配をかけ、迷惑もかけたしまったと反省する誠実。
この二人がいなかったら、自分は今笑えていないんだろうなと考えながら、いつもの調子で二人に言う。
「お前ら本当にバカだな! 俺が今更そんなん気にするかよ、ストーカーだぞ? 俺は」
「「うわっキモ……」」
「おい! この流れでなんでその返しなんだよ!」
誠実は武司と健と別れ帰宅した。
家に着く頃には21時30分になっていた。
「ただいま~」
「あんた、遅かったわね……ってどうしたの? 不細工が余計に不細工になって」
「母さん…息子をいじめて楽しいかい?」
いつものように、誠実に厳しい母親に、誠実は肩を落としながら応える。
「まぁ色々あってな…風呂空いてる?」
「お父さんと一緒で良いなら空いてるわよ?」
「開いてないならそういって……」
誠実は風呂を諦め、風呂が空くまで自室で待つことにする誠実。
部屋に入り、誠実はベッドに横になって力を抜く。
「あぁ~疲れた……」
疲れたかいもあり、ようやくモヤモヤしていたことが解決し、誠実は満足した様子で目を閉じる。
「……終わったなぁ~」
本格的に誠実は自分の恋の終わりを感じ、誠実は笑いながら涙を流す。
これまで泣かなかった分、誠実は疲れと同時に涙があふれてきた。
「ま、いっか………」
口ではそういう誠実だが、内心は悔しくて仕方なかった。
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