第30話



 誠実は、現在3人の美少女と商店街を歩いていた。

 普通ならうれしい出来事のはずなのだが、誠実は自分でもなぜだかわからないが緊張していた。

 理由は、この3人の少女の空気にあった。


「……」


「……」


「……」


 なぜか無言で歩く3人の美少女。

 誠実はそんな3人の後ろを気まずそうに歩いていく。


「あ、あのぉ……」


 気まずそうに誠実が声をかけると、栞が笑顔で振り向き、優しく答える。


「どうかしましたか? 伊敷君」


 優しい栞の対応に、心の安らぎを覚え、誠実の顔は少し緩む。

 それを見ていた美奈穂は、そんな誠実が面白くないようで……。


「おにぃ、気持ち悪いよ? そんなにその人と話せてうれしいの?」


 美奈穂はすこぶる機嫌が悪く、誠実に対して悪態をついてばかりだ。

 この前の事で、少し距離が戻ったと思った誠実だったが、なんだか前に戻ってしまったような感じで、少し悲しい。


「ちげーよ! なんかわからないけど、空気が重いから……そんなときに優しく応えてもらえたら安心すんだろ! てか、どこに向かってんだよ!」


「状況を整理したいの! 良いからファミレスに行くわよ!」


「なんの状況だよ! さっき説明したろ? この人は先輩で、沙耶香はクラスメイトだって!」


 校門前で鉢合わせした3人の少女は全員、誠実の事を知ってはいるが、互いを知らなかった。

 だから、誠実が説明をしたのだが、何やら3人とも誠実の説明では納得がいかないらしく、別な場所で状況を整理するという事になり、商店街の先にあるファミレスを目指して歩いていた。


「誠実君、妹さんは良いとしても、先輩とは何でこんなに仲が良いのかな? ねぇなんで? 目をそらさないで教えてよ」


「さ、沙耶香さん……怖いです」


 誠実が一番怖いのは沙耶香だった。

 自分に好意を持っていることを知っている上に、誠実が他の女生徒と仲良くしているとヤキモチを焼く。

 こんな状況だと、沙耶香が何を言って来るか、わからない上に既に何か怒っている感じがする誠実。

 何とか、沙耶香が変なことを言って、状況をややこしくしないようにしなければと、誠実は注意していた。

 歩いて数分で、ようやく目的のファミレスに到着し、4人は席に案内される。

 ファミレスは昨晩に美奈穂と誠実が飯を食べに来たファミレスで、今日も店員さん達は、美奈穂と誠実が居る席に注目を集めていた。


「ご、ご注文、お決まりでしょうか?」


「「「ドリンクバー4個」」」


「は、はい!! かしこまりました!!」


 3人の少女の威圧感と、異様な空気に圧倒され、店員さんは注文を聞いてすぐにバックヤードに戻って行った。


「で、本題に入りたいんですけど……まず、貴方は兄の学校の先輩で……」


「はい、でもちゃんとお名前を教えたのは今日なので、知り合って一番期間が短いですね」


「貴方は、兄のクラスメイト……」


「うん、そうだよ? ところで美奈穂ちゃんだっけ? 私の事はおねぇちゃんって呼んで良いからね?」


「え、遠慮します……」


 沙耶香の言葉に、若干身を引く美奈穂。

 知らない人に緊張しているのか? と誠実は美奈穂が心配になり美奈穂の隣で補足の説明を入れる。


「沙耶香には、料理部でお世話になってな、以来こうして仲良くしてもらってるんだ……基本良い奴だから、そんな緊張すんな」


「緊張なんてしてないし……ていうか、あんま顔近づけないでよ……」


「あ、悪い悪い」


 頬を赤らめながらそう言って来る美奈穂に、誠実は謝罪し、顔を離し、正面を向く。


「仲が良いんですね」


「いや、コレでも前まではあんま口きかなくて……」


 誠実と美奈穂の向かいに座る栞が、微笑みながら誠実に言う。

 栞だけは、態度を変えることなく、朝と同じ穏やかで優しい表情のまま話をしてくる。

 そんな栞に、誠実は安心感を覚えながら、話をするが……。


「ねぇ、誠実君。本当に妹さんだよね? 隣の中学生の幼馴染とかじゃないよね?」


「さ、沙耶香さん……どうしたの? いつもの沙耶香さんに戻って!」


 校門前からずっと笑顔の沙耶香だが、目は笑っておらず、黒いオーラを放ちながら、誠実にいつもの感じで話をしてくる。

 いつも通りの話し方なのが余計に怖かった。


「そ、そう言えば、先輩俺に用事があったんじゃ……」


「いえ、見かけたので声をかけただけです。私も丁度帰るところだったので……」


「あ、そうだったんですか、部活の帰りとかですか?」


「いえ、生徒会の仕事で、遅くなってしまって」


「そうなんですか、大変ですね……ところで美奈穂」


「何?」


「机の下で、俺の足をぐりぐりするのやめてくれない? 顔に出さないけど、すごく痛いんだよ?」


 机の下では、誠実の隣に居る美奈穂が、先ほどから誠実の足を踏みつけ、かかとでぐりぐりしていた。

 誠実はそんな美奈穂の攻撃に耐えていたのだが、流石に限界だった。


「あ、ごめん。わざと」


「それ、謝罪とは言わないからな! なんなんだよ! いきなり一緒に登校してみたり! 迎えに来たり! 機嫌悪くなったり! お前ここ数日おかしいぞ?」


「うっさいわね、毎日おかしいあんたに言われたくないわよ」


「おかしくねーよ!」


「本当に仲がよろしいんですね」


「どこが?!」


 美奈穂と誠実の様子を見ながら、栞が笑顔でそう言ってくる。

 誠実はとっさに突っ込み、ため息を吐きつつ、踏まれていた足をさする。

 そんな状況で、誠実のスマホが音を出して震えだした。


「ん、電話か、ちょっと出てくる」


 誠実はそのまま店外に出ていき、残った3人はようやく本題に入れる思った。


「御二人に聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」


「私は構いませんよ? 何かしら?」


「なんでも聞いてね」


 美奈穂の言葉に、二人は表面上は快く了承する。

 何を聞いてくるか、二人には大体想像がついていた。


「うちの兄とはどういう関係なんですか?」


 美奈穂のこの一言から、三人の静かな戦いが幕を開けた。

 ファミレス店員やその場に居合わせた客までもが、この3人の会話に注目していた。

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