第15話

 誠実と美奈穂は近くのファミレスまで足を運んだ。

 中学生の妹に晩飯を奢ってもらう日が来るなど、誠実は思ってもみなかったが、それ以上に驚いたのが、二人きりで食事に出かける日が来たという事だった。


「いらっしゃいませー! お客様は何名様ですか?」


「二人です」


 店に入り、店員のお姉さんが笑顔で誠実達に尋ねる。

 誠実達は店員のお姉さんに案内され、窓際の席に座り、メニューを見始める。


「………」


「………」


 先ほど、家では普通に話せていたはずなのにも関わらず、少し時間をおいて、ファミレスに来たらお互いにまったく話さなくなってしまった。


(気まずいな……何んか良い雰囲気だったから、飯に誘ったけど、正直話題も金もない……)


 ダメな兄貴だなと、誠実は自分自身をそう思いながら、メニュー表を見るふりをして、美奈穂の様子を伺う。


「私決まったけど、そっちは?」


「ん? あ、あぁ…俺は……」


 奢って貰う側なのだから、少しは遠慮せねばと思い、誠実は店で一番リーズナブルなハンバーグセットを注文する事にした。


「俺も決まった、じゃあ店員呼ぶか」


 席の呼び出し用のボタンを押し、数秒で店員さんがやってくる。


「ご注文の方をお伺いします」


「俺はハンバーグのライスセットで」


「私は、チキンドリアと食後のデザートでイチゴパフェで、お願いします」


「かしこまりました、少々お待ちください」


 注文を聞き終えた店員が戻って行き、再び二人のテーブルには沈黙が訪れる。

 メニュー表を見るという逃げ道もなくなり、誠実は気を使って何か話題は無いかと考える。


「ねぇ、聞きたい事あるんだけど?」


「ん? ど、どうした??」


 何か話題は無いかと考えていた誠実に、美奈穂が突然話をかけてきた。

 誠実は急な事に戸惑いつつも、先ほどの玄関ではしっかり会話が出来ていた事を思い出し、美奈穂の言葉を待った。


「あのさ、これって誰の写真?」


「な……なんでお前がそれを……」


 美奈穂は誠実に一枚の写真を取り出し、見せてくる。

 誠実はその写真に見覚えがあったのと同時に、なぜ美奈穂がその写真を持っているのか不思議だった。


「女の子? しかも確実に隠し撮り……」


「い、いや……そ、それは……」


 写真に写っているのは綺凛だった。

 この写真は誠実が学校の写真部から買ったものだった。

 写真部は学校内の可愛い生徒の写真などを販売していた事があり、誠実は一枚だけ購入した事があった。

 写真は、誠実の部屋の引き出しに入れていたはずであり、なぜ美奈穂がその写真を持っているのか、不思議でならなかった。


「そ、それはそうと、なんでお前がそれを!」


「今日の朝、あんたが落としていったのよ」


 言われて誠実は思い出した。

 今朝、誠実は願掛けのつもりで、写真を制服のポケットに入れて学校に向かったのだった。

 誠実はすっかりそのことを忘れており、写真は玄関で落としたのだろうと思った。


「で? 誰なの?」


 

 なぜか不機嫌そうに誠実に尋ねる美奈穂。

 誠実はそんな美奈穂に、綺凛との関係をどう話すか考える。


「えっと……同じ学校で……」


「あんたの好きな人?」


「ま、まぁ……」


「ふーん……」


 机に写真を置き、なぜか不機嫌な美奈穂。

 誠実はそんな美奈穂の前で、気まずそうに視線を泳がせる。


「お、お前に関係ないだろ……」


「妹として、兄貴がストーカーまがいの事をしてないか心配なのよ」


(ごめん、おにぃはもう多分、他の人から見たら、完璧なストーカーだよ……)


 誠実は美奈穂に対してそんな謝罪を心の中でしながら、さらに気まずそうに眼を泳がせる。


「まぁ、私には関係ないけど……」


 とは言いつも美奈穂は相変わらず機嫌悪そうに、スマホを操作し始める。


「ま、まぁ……写真くらいなら別にいいだろう…」


 誠実はそう言いながら、テーブルの写真に手を伸ばし写真を回収する。


「そ、それにだな……今日振られたんだ……」


「え……」


 美奈穂は誠実の発言に、先ほどまでスマホに向けていた視線を誠実に移す。

 誠実はどうせ写真をも見つかっているならと、振られた事実も美奈穂に話す。


「あのさ、高校入ってから料理をしたり、急に柔道始めたのって……」


「まぁ、ちょっとしたアピールというか……」


 実際はちょっとどころではない、そう思いながら誠実は今までの綺凛との事を話し始める。

 あまり美奈穂と最近話をしなくなっていた誠実は、いい機会かもしれないと思った。


「……と言うわけで、99回の俺の告白物語は終わったって事、今考えると、正直山瀬さんも良く俺に付き合ってくれたな…」


 改めて自分がしてきた告白の話を他の人にしてみると、誠実は自分のやっていた事の異常さに気が付く。

 綺凛以外が見えておらず、ただ彼女に好かれるために行動していた自分が、変な奴だったということに気が付き始め、誠実はため息を吐く。


「はぁ~、なんていうか……恋って難しいな…」


「そうね、ところで病院ってまだやってるかしら? 今から精神科に行ってきた方が良いわよ?」


「だから諦めたって言ってんだろ!!」


「あ、ごめん。脳外科だったわね」


「頭を見てもらえってか! 心配しなくても正常だよ!!」


 振られてブルーになり、カラオケで奢らされ、帰り道に少女を助け、家に帰ったら迷惑な客を追い出し、挙句の果てには妹に馬鹿にされる。

 本当に今日は色々なことがあるものだ、そう誠実は思いながら今度は深いため息を吐いた。


「はぁ~、まぁそれはさておき、今日来てた男は誰なんだよ?」


「あんま覚えてないわ、どっかのプロダクションの社長だった気がするけど……あの感じからして、そこまで大きなプロダクションじゃないわ。普通社長がスカウトなんて来ないもの」


「まぁ、確かに……まぁ、お前は容姿は良いからな……」


「ま、まぁね……」


 誠実が容姿を褒めた途端に、美奈穂は頬をほんのり赤く染め、誠実から視線を外し、再びスマホを操作し始める。

 久しぶりに話して緊張でもしているのだろうか? などと考えていた誠実。

 ちょうどその時、注文していた料理が運ばれてきた。

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