第20話 舞台で踊ろう
人は自分の空間を手に入れれば自由になる。
その自由を得ることでより速度を増していく、
それが他人の空間を奪うことだとしても、行為は止められない、
一度走り出した足はなかなか止まらないが、心臓が、
肺が無理を言って止めてくれる。
だが止めてくれるなという、悪竜の成長は止まらない、
あたらしい舞台は整っていく、人々が寝て起きて寝る。
このあいだに起きた事象でととのえられた舞台がある。
何万回と繰り返してきたことなのだ、ひとの成長、人の性格、
人が作り上げた巨万の世界は何もかも、人が空間を埋めたから誕生した、
人が空間を埋めて、次にまた自らの空間を定義してを繰り返して続く、
小さな空間から大きな空間が必要だ。
三歳児の生きている空間でいまだなお生きる三〇歳の男がいる。
その男は成長したといえるだろうか?
人間は拡大しなければ生きて行かれない、
次の場所、次の場所、また次の場所と、加速度的に人間は増えなければならない。
自らの欲求のままに増えていくものに人間はとてつもない興奮を覚える。
悪竜の成長も丁度その興奮を満たしてくれるもののひとつだ、
何百度、えがいても描き切れぬ悪竜トンベンマガスガトリクトの成長、次の民族を次の民を次の人生を踏みつぶして、
拡張していく悪竜の成長を皆が待っていてくれる。
悪竜はその大きさをさらに増して喉笛鳴らして次を求めている。
次なる国はユジリア、超大国ユジリアをトンベンマガスガトリクトは喰らおうとしている。
ユジリアは国家として魔法を強く鍛えあげてきた、
その魔術によって動く人形たちが国の土塁を石垣を詰み鍛え上げてきた、
より大きくより強く、より意味を求めて、まるで竜のような勢いで人々は、
一人一人が寝て起きて寝る間に意味を成して形を作り上げていく、
どんどんと世界が完璧になるにつれて、周りの国家に挑み、ユジリア民族の意味、
そしてその猛き野望すべてを高らかに歌ってきていた、それが、
だれの居場所を奪うことになるかも知らずに、自らが強きものになれるように誇った、
何百回もの戦いののちにその国は驕った、おごりとは何か? かれらのおごりとは、
自らが寝て起きて寝るという基本的なことをする小さな生き物に過ぎないことである。
巨大な悪竜を前にして何の意味もない、ただ餌となるべくしてある生き方のそれを、
何百回と繰り返して今、超大国を築き上げたわけである。
これを簡単に切り崩すことは難しいことではあるだろう、またしても、悪竜は死んでしまうことだろう、しかし人々は何百回でも己の弱さを知ることになる。
世界から地上から自らの居場所がこれっぽっちしかあたえられていないことを恨めしくおもって死んでいった悪文たちが悪竜に集っていく、わかることだろう、人間はじめから悪者であったわけではない、ただ居場所が無いものは、奪うことでしかいきれない、
文士もまた同じくである。文士には古来居場所はない、ただ文筆に向き合うことでのみ、おのれの世界を語ることが許され自由が保障された弱い生きものである。 故に文士は全てが積み重なっていく間に、ことさら自らを弱くした、
だがそれも変わっていく、恐ろしいものを前にしたとき、それを素早く語ることの出来るものがもっとも力を持つこの世界において、恐怖は自らの居場所である。
怖れよ、怖れることでよってのみ居場所は約束される。
弱き民が自らが畏れるものをより多く、大量に想像することによって居場所を強く意識することが出来る。 そのたびにコトモノヤクソク増えに増えていく、
人間がすべきこともまた増えていく、一日を生きるために欲しいものも増えていく、欲が欲を呼ぶ、アレが欲しいこれが欲しいを増やしていく、
いつしかすべきこと全部を呼び連ねて、理想の生きかたを問い始めもする。
その全部を喰らうのが悪竜だ、人間は喰らわれるために生きている、理性を尽くしている。
他者に食い物にされて生きていくことにならされているのならば、その他者を現実のものとして目の前に置くのみである。
悪竜とは人間が忘れ去った現実そのものなのだから。
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