第10話 世界をみつめて

悪い文章を書く人ってそんなにいないもんで、

つじつまがあわないっていうけれど、

どっかに抜け目はあんだから仕方がない、

だけど記録する仕事については難しい。

「記録記録って結局あの悪竜はなんだったんだ?」

「どうやら悪文を喰らって生まれたらしいが」

「だれの悪文を喰らったってことにする?」

「わからん、とりあえず悪魔だ、サタン」

「あの大きさだったらレギオンとか呼んでみたら?」

三等文士と二等文士のはなしあわせで竜の検分が、

行われることになった。

 「これだけの大きさだよ鱗も山ほど」

 「やったね!!!龍の宝石袋!!!」

田畑や鉱山が描写を悪文として喰らった時、

悪竜の全身はトンベンマガスガトリクトのカラダは、

ありとあらゆる鉱物で作られて出来てることがしれる。

その胃袋は鉄を溶かしてあめ湯にする高炉にして、

その先にある消化器官はまるで宝石の鉱脈。

 数多くの犠牲の果てに竜から得られる資本は莫大。

トンベンマガスガトリクト

その死骸をもってしてクシ王国の失われた威厳を、

取り戻すに充分な、国宝を産み出し続ける器。

 邪悪が正されたのちに待つ宝石箱であった。

「おそるべきことだが、我々は」

竜の身体の中に広がる世界を待ち望んでいた。

かくしてトンベンマガスガトリクトの遺骸を、

クシ王国は祀り、勝利の栄光で飾る。

「全てを描写しきるよりも、これは内密に」

竜は子種を宿していた。

「どうするというのだ一等文士どの」

「解き放つのです、しかるべき場所に」

「なにを」

悪竜トンベンマガスガトリクトを再び、

「竜のチカラを何度でも使えるのなら」

「なるほど」

「そちは悪竜による犠牲を数えぬのだな」

「ええ、悪竜のチカラは何億の職工を越え」

「鉱山労働者何万人をもてしても得れぬ宝珠」

「一級の鍛冶師数千人をもてしても得れぬ武具」

「これを一辺に与えてくれます」

竜の鱗ひとつひとつが盾に兜に鎧になり、

牙が爪が、その棘、骨が何もかもが武具になる。

「邪悪な考えだ、しかし」

邪悪も場所による、邪悪には邪悪、

悪文を喰らって生きるのが悪竜なれば、

「敵に食らわしてやれば

 私めがしかるべき被害を

 記録してお伝えしましょう」

「はは、悪竜使いめ、

 出来るものなら好きにするがいい」

「もっとも我らの敵は貴様かもしれぬがな」

国王は悪竜の莫大な遺産に酔いしれ、

一等文士の狙いが何であれ、

雇い入れることを決定するに、

さほども迷うことは無かった。

そして二等文士に出来るのは、

彼らの動向を眺めて記録する位の、

ものであることは知れた。

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