第151話 力の理由
『……なるほど、
雪豚鬼の族長、ハクムサージュ……ハクム、と呼んで欲しいと言われた……が俺の事情を聞いた後、そう言って頷いた。
もちろん、事情と言っても俺が遙か昔の魔族四天王の生まれ変わり、なんて話はしていない。
ただ出来ること……つまりは死霊術師であり、この雪山で遭難せずに歩き回れる程度の力があることは話すことにした。
人間であるならともかく、魔物に分類されることもある
忌み嫌われたらそのときはそのときだと思ったが、実際その賭けに俺は勝った。
少し驚いていたが、それは俺が五歳の子供であるからで、死霊術師自体に特に含むものはないという。
そもそもこの雪山に訪ねてくるような死霊術師が存在しないため、好きとか嫌いとかそういう感覚自体がない、というのが正確なところらしかった。
確かにわざわざこんな雪山の、しかも
それに、リュヌの話を聞く限り、現代の死霊術師は魔術師特化が多いようだからな。
俺の場合、武術もしっかり修めたので体力面でも自身があるが、ただ死霊術のみを究めていこうとするような姿勢では、こんな山などまともに登れはすまい。
『……やはり、氷狼の姿は頻繁に見かけられますか?』
俺が尋ねると、ハクムが答える。
『そうですな。奴らは我々を餌とするものですから、それなりには。しかし我々もただではやられはしませんので……常に、というほどでもありません。それに奴らと我々の間にはそれなりの掟がございます。女子供は襲わない、食わない、という掟が』
『……それは意外な話です。もっと弱肉強食と言いますか、手当たり次第に襲い、襲われる関係かと思っておりました』
『数百年ほど前はそのような関係だったことも確かです。しかし……この山では他の場所よりも高い頻度で、我々魔物の中に強力な個体が生まれます……たとえば、
それを聞いて、なるほど、と思った。
氷狼や雪ゴブリンの中の強力な個体、というのはネージュが言っていた奴らなのだろう。
そして雪豚鬼でネージュにたまに挑みに来る奴、というのはカーのことというわけだ。
彼らのような個体がこのグースカダー山ではたまに生まれる。
彼らはそれぞれの種族の中でも突出した能力を持つ存在であり、だからこそこの雪山においては一定のルールを作る必要が生じたと。
強力な武器……聖剣や魔剣を持つ国同士がお互いに手を出せないからと条約を結ぶのと同じだな。
ただしルールの中で戦争をやる分には構わない、と。
そこまでして戦わなければならないのか、という気もするが魔物については戦うことが本能に刻まれている。
それに食料の確保もあるだろうからな。
ここは仕方がないだろう。
人間については……やはり戦うのが本能なんだろうか。
一方でなんとしてでも平和を求める者もいるが……そういう矛盾が、人の面白いところなのかもしれない。
『しかし、カーのような存在が高い頻度で生まれるとは……一体何故……』
独り言のように呟いた俺である。
ある程度予想はついていたが、一応、ハクムやカーの考えも聞いておきたかったからだ。
まずこれにカーが言う。
『俺は自分自身のことながら、よく分からん。だが、昔から鍛え続けていたらこうなった。それだけだ』
単純明快な答えだ。
確かにそれも事実なのだろう。
ただ、これにハクムが付け加える。
『カー自身の努力も勿論ありますが……才覚も近年、他に並ぶ者がおりませんでしたからな。そして百年に一度ほどではありますが、そのような者が定期的に生まれているのは決して偶然ではないと思うのです。そしてその理由は……
やはりそうだろうな、という感じだった。
数百年前にルールが決まった、ということはその頃からカーのような者が生まれ始めたということなのだろうが、様々な種族に生まれているのであればそれは偶然とは考えにくい。
ではどこに理由があるか、と言われるとやはりこの山においては
しかし遙か万年の昔から存在し続ける
けれど、これについても俺にはなんとなく予想がついている。
おそらくは、ネージュの母親の力が増大したからだろう。
外に漏れ出しているわずかな力だけで周囲の他の魔物を竜と戦えるくらいに強化してしまうほどにまで。
種族全体ではなく、その中の一匹程度だけが、というのはネージュの母親が調整したのか、他の理由があるのかは分からないが……それぞれの種族が拮抗して雪山の平和を保っていることを考えると、調整した方の可能性が高そうな気がするな。
創造神になるほどの存在なのだし、そういうところはそれなりに考えていたはずだからだ。
そしてもう、その程度の影響で済まなくなりそうだからこの世界を去ったのだ。
おそらくこの世界を愛していた真竜なのだろうな、となんとなく思った。
どうせならこの世界を去る前に会ってみたかったものだが……いずれ、俺も同じくらいの長き時を生きて力をつけていけば、会いに行くことも出来るのだろうか。
気が遠くなる話だが、少しそういうのを目指してみてもいいかもしれない。
そんなことを思った。
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