第35話

  ☯


 ――タケミカヅチ。


 かつては武御雷とも呼ばれており、日本神話最強の雷神とされている。


 俺は今、その神と戦っている。


「どうやら、おまえは俺のことをよく知らないらしい」


「……?」


「俺の本当の力を見せよう」


「……!」


 雷鳴が轟く。


「雷電光撃」


 俺はタケミカヅチが放った雷を身に受けてしまう。


「ぐあっ……!」


 体に痺れが走り、動きが鈍くなる。


「終わりだ」


 動けない俺にタケミカヅチは刀を向けてきた。


「……!」


「死ね」


 刀を振り下ろす。


 俺は死ぬ……のか? ……嫌だ! 死にたくない!!


「――!」


 そのとき、俺の中に眠っていた力が目覚めた――。


 ――ドクン! 俺の中で心臓が脈打つ音が聞こえた。


 そして、俺の体が……いや、俺の魂が……変化する――。


「……!?」


「なんだ……その姿は……」


 俺の姿は変わっていた。


「…………」


 俺は、この姿を知っている。


 この世界の理から外れたもの……神にも悪魔にもなりうる……この世界では異質なる者――。


「ヒルコ、なのか?」


「ヒルコではない。俺は皆神蛭子だ」


 俺は皆神蛭子という人間であり、ヒルコでもある存在となったのだ。


「俺の力を見せてやる」


「くっ! 速い!」


 タケミカヅチの動きを上回る速さで俺は動いた。


「雷速」


「……!」


 俺は雷となり、タケミカヅチに体当たりした。


「雷電衝撃」


「ぐうぅっ!」


 雷の衝撃を受けて、タケミカヅチは倒れる。


「なぜだ! この俺よりも、速く動けるはずがない!」


「それは、俺の魂が変化しているからだ」


「……?」


「この世界に来てから、俺の魂は変化していた。それが、いま、この瞬間に覚醒したんだよ。タケミカヅチである、あなたと戦う中で、あなたの力を吸収しているんだ。それは今も続いている」


「吸収している……だと?」


「だから、俺は、あなたに勝つことができる」


「ふざけるな……!」


 タケミカヅチは立ち上がり、剣を構える。


「ならば、この一撃で終わらせるぞ」


「そうこなくちゃ、面白くない」


「俺の必殺技で貴様を消滅させるっ! ……剣技・稲妻斬りっ!!」


「俺の魂が放つ技で、打ち砕くっ! ……魂技・雷神降臨っ!!」


 ――稲光の閃光と雷鳴の轟きが響き渡った。


「うおぉーっ!」


「おおぉっ!」


 ――タケミカヅチと皆神蛭子の戦いが始まった。


 タケミカヅチは技を発動する。


「剣技・稲妻斬りっ!」


 タケミカヅチの剣が雷を帯びて発光する。


「雷電光撃っ!」


 皆神蛭子も技を放った。


「魂技・雷神降臨っ!」


 皆神蛭子の全身が放電現象を起こす。


 そして、両者の技が衝突する。


 ――バチィイイッ! 激しい電撃と稲光が周囲に放たれた。


「……うううっ!」


「……うおっ!」


 両者は、そのまま硬直状態になる。


「……はぁ……はぁ……はぁ……なん……だと?」


「……はぁ……はぁ……はぁ……さすがは、最強と呼ばれるだけのことはあるね」


「どういうことだ? 俺の攻撃が、まったく通用していないのか?」


「そういうことになるね」


「……馬鹿な」


「これが、俺が得た力……神を超えた力だよ」


「神を超えた力……だと?」


「ああ、これが神殺しの……神滅の力を持つ者の力さ」


 俺は自分の力について、タケミカヅチに説明することにしたのだった。

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