何かを今救えるのなら③

「ふぅ、ご苦労様ですエイル。本国への帰還を許可します」


モニタリングしていた屋上の激闘が終わりを迎え、傷一つ負わなかったミツェオラが、ボロボロのウラノスとティエオラを挟んで、何とか取り戻そうとする都子たちと向かい合っていた。

倒れ伏したウラノスとティエオラは寄り添う様に手を握り合い、まるで比翼の鳥の様にひとつになっている。


System:Message《Phantom Princessの無力化及び、ウラノスの持つ制空権略奪。Phantom Princessの殲滅》


「ははっ、はははははははははは! 最低だな、最悪で最低だ」


「っ……たいわね、そろそろ本当に殺しに行くけど。その気になるまでにその2人を返しなさい」


都子が刀を抜くと同時に人形も刀を抜き、構えた都子と同じ動作をして構え、音もなく消えたかと思うと、ミツェオラが盾にした特殊部隊の隊員の腕が飛んでいた。

切り口から広がった斬撃で微塵も残らなくなり、それまで鮮やかだった都子の緋色の髪が、人形と同じ灰色に染まっていく。


聖刀舞せいとうぶ神楽舞かぐらまい


都子の放った音よりも速い斬撃は、遅れて響いた抜刀の音を轟かせ、見えるはずもない空気が斬られる所まで見えた気がした。

ミツェオラの頬を掠めた一撃が届かずに、都子はその場に崩れ落ち、横腹から滲み出る血が池を作っていく。


「エイル、そこを今すぐ退いて道を開けて。じゃないと、今は加減とか出来ない……」


言い終わる少し前に目の前に現れた友希那は姿を消し、ミツェオラに貰った模擬特殊武装の壁を一撃で貫く。

青色の双眸そうぼうが線を引いて左右に揺れ、背中に背負っていた防弾シールドを紙のように斬り捨てる。


「退けよ! あいつに1発、いや何発も入れてやらないと気が済まないの! 次で殺す」


System:削除《Phantom Princessの無力化及び、ウラノスの持つ制k》

System:WARNING


「そう、それが貴女の意思であり選択」


「あぁ、ごめんなミツェオラ。でもよ、お前の娘を見つけるまでってけいやくだったろ、もうお前の支配は通用しないぜ」


飛び掛ってきた友希那の勢いを利用して後ろに飛び退き、一気にビルの屋上まで吹き飛ばされ、地面に私を組み伏せた友希那が消える。

ミツェオラの方に目線を向けると、既に懐深くに肉薄している友希那が、手に持つコルトガバメントの玉を全て撃ち終えていた。

完全に目で捉える事が出来なかった姿が漸く瞳に映るが、ついさっき下で会った様な美しさは無く、ウラノスと都子と同じく、髪が灰色に染まり切っていた。


「ふふふふっ、遅かったわねエイル。もうウラノス継承の素材が揃ったわ。後は私が手にするのみだわ」


「君が夫だなんてお断りだね僕は、でもこの時を待っていたよ友希那。いや、おいでウラノス」


「お母さん!」


「っ……迂闊に手を出すべきではなかったねミツェオラ、そして間違えた君に、元よりウラノス継承権は無い」


ティエオラと友希那の前に飛び出したウラノスが、ミツェオラの特殊武装から放たれたバリスタの弾を、小さな体に捩じ込ませる。

ティエオラと友希那の頭に手を添えて抱き寄せると、Phantom Princessのライブ映像が非表示になり、ウラノスの声だけが頭の中に響く。


「この世界では、何かを生むには必ず痛みが生じる。それが君たちにとって私だったかもしれない、違うかな……でも私は信じる、全ての人々に等しく祝福を、信じてる」


「世論を掌握させるか」


遠距離攻撃では無駄だと悟ったのか、剣を創り上げたミツェオラがウラノスに斬り掛かるが、ティエオラの大剣が空から降ってきて、ウラノスの背中に迫った刃を防ぐ。


「言いたい事が沢山あったさ、でも僕は言葉に出来ないまま君を……」


「国防長官今すぐに核の雨を降らせて、このドイツごと消し去りなさい!」


距離を取ったミツェオラが本国への命令を下すと、まだ繋がっていた私の目の前に、退去の指示が出される。

カウントダウンと同時にミサイル発射の映像が映し出され、多数の戦闘機が発進して、軍を退去させる為にドイツに向かう。


「共闘しなさいエイル、許可する」


「……あぁ、でもミツェオラ、お前とじゃない。私はPhantom Princessと共に戦う」


「なら裏切り者は初めに死になさい」


「それは無いんじゃない? 自分の部下に向かって」


ミツェオラの背後に一瞬だけ見えた、大きな鎌を持った兎が私の首を飛ばそうとしていたが、聞き覚えある声の主が、細腕で軽々と受け止める。


「これ一応ディストーション張ってるからずるだけどね」


目の前に揺れるPhantom Princessのクロークのフードが外されると、可愛らしく笑ったアンジュがウラノスたちを見る。

それからミツェオラを睨み付けて、何度もコルトガバメントの引き金を引き続ける。


だが、その攻撃はミツェオラに届く前に突然方向を変え、半分に割れては地面に落ちる。


「ドルカス、BIOS、クローチェ、ここは任せる。必ず殺して」


地面から突然手が生えて来て、立っていたアンジュの足を掴むが、凛凪の転移によって現れた女性によって防がれる。


「Gz9推参ってところか? ウラノスクイーンさんよ、油断しちゃ駄目だぞ」


更に空から現れた2つの影が無防備なティエオラたちを狙うが、瓦礫を吹き飛ばして現れたボロボロの聖冬と鈴鹿が、同時に結晶を飛ばして牽制する。


「聖冬さん、裏切りについては謝る、許されないのは分かってる。だけどこれだけは伝えさせてもらう、アメリカ軍は退却するけどよ、人工生命は増え続ける。ドイツは……」


「謝る気があるなら何も言わずに命を削りなさい、私たちには世界の象徴であるPhantom Princessが居るんだから。何を恐れることがあるの?」

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