何かを今救えるのなら①
「そろそろPhantom Princessも終わりか、今の内に辞めとこうぜ」
「馬鹿言え、俺らにここ以外居場所があると思ってるのか? ウラノスさんに拾われて、助けてもらった恩もあるだろ」
「そのウラノスさんがあぁなってて、今や行方知れずだぞ。もう、とっくに……」
「うるっせぇな! とっとと準備しろよ! 野垂れ死にたきゃ勝手にしてろ、ウラノスだけがPhantom Princessじゃないだろ」
武器庫の少し離れていたところで準備していたPhantomに、どうしても我慢出来ずに声を荒らげてしまう。
ウラノスが偽善者と言われているみたいなのに加えて、Phantom Princessがまるで終わるかの様な言い方は、この短期間でも身近に見てきた私には、怒りにしか変換出来なくなっていた。
アメリカでなら平気で上官の陰口に混ざっていたかもしれないが、ウラノスは誤解されやすいだけで、そんなに悪いやつじゃない。
殆ど弁解せずに放置するし、自分が何を言われようと大人しいが、他人が何かされたり言われたりすると、すぐに手が出るが、それも嫌いじゃない。
目の前で私を睨む男が歩み出てきて、肩を掴もうと腕を伸ばす。
だがその腕を下からすくい上げた刀の峰が、裏返って連れ去った手首に刃が添えられる。
「とっとと準備、それとも後方支援をエイルと変わってもらう? 貴方達が最前線を支えられるとは思えないけど、今の言葉に納得出来ないならどうぞ」
武器が並べられた棚の横から顔を出した都子は、今から最前線に出る鈴鹿の隊が並んでいる部屋を指差し、それに気付いた鈴鹿が手招きをする。
「い、いえ……失礼しまし……」
「上等じゃねぇか、俺だって幾つもの修羅場を潜り抜けてきた。てめぇも聖家の当主だかなんだか知らねえけどよ、調子乗ってんじゃねえぞ」
都子を突き飛ばして鈴鹿の隣に並んだ男は、手の中にあるAKを体の前に構え、開いたハッチから広がる地上を見て、飛び降りるのを躊躇う。
「Phantom Princess
都子が先頭で大空に身を投げ、それとほぼ同時に私も空に身を投げ出す。
続々と後続の部隊がハッチからその身を投げ、そこに居るであろう問題児を助けに行く。
「おらどうした! 大口叩いてた割には飛び降りれねぇのか、落下傘強襲部隊第一部隊降下開始しろ!」
これ以上は待てないと判断した鈴鹿が第二部隊の後に続き、瞬く間に第二部隊を抜き去る。
同じ体勢で急降下している筈なのに、何故あんなにも速いのか疑問に思うが、それは考えても分からない経験の差なのだろう。
「すげぇ、ドレイクの野郎に一歩先行かれたな」
「無駄口叩かない、無人ユニットが交戦している地点に落ちるから巻き込まれないで。パラシュート展開まで、カウント5」
空の上でのカウントはあっという間で、ギリギリまで地上に近付いてからパラシュートを開き、勢いを殺し切れぬまま無理矢理着地する。
少し開くタイミングを遅くしてある為迅速な行動に移せるが、裏を返せば怪我をしやすく、戦闘前に命を落とす可能性もある。
「2人ひと組で散開! 川を隔てている敵部隊は放置、愛奈はヨルドから敵戦車を破壊する対地ミサイルを。第一部隊の支援をしながら距離を詰めて、これより先に進まれたら反制府の未来は無いと思いなさい!」
ウラノスを探しに行くのはあくまで私だけの考えだが、都子の言った通り、メリーランド州を超えられると相当にキツい。
只でさえ制圧拠点が少ないのに、ワシントンDCを囲む様に広がったこの砦が崩壊すれば、広範囲に渡って制府軍の侵入を許してしまう。
いつの時代も数が少ない反制府組織にとって、それは
このナンディコークで陣取ったアメリカ軍に対し、空からの強襲で叩く事になった。
空と言っても、空域を堂々と突き進むのは不可、それならば宇宙からならとウラノスから連絡が入ったのは、今から3日前の夜。
ヨルドから先に投じられていた無人格闘ユニットが既に交戦していて、空と地上から同時にアメリカ軍を攻め立てる。
ビルの中に突入して突き当たりの廊下を曲がろうとした都子が後ろに飛び退くと、発砲音とほぼ同時に弾丸が壁を貫く。
都子の手が何か指示を出したのを見て、背後の3人が離れていく。
System/Message:《ギフト、ストレルカ。アサルト》
言われた通りにコンカッショングレネードのピンを抜き、起爆する3秒前に曲がり角の向こうに投げ、SOCOMを構えた都子の支援をする。
放った弾丸で、寸分違わずコンカッショングレネードを向こうの曲がり角に弾き飛ばした都子より先に飛び出し、飛び出して来た痛覚遮断を施されたアメリカ軍人を確実に沈黙させる。
「あんた生意気よ」
私を抜いた都子が追い抜きざまにそう言って背中を叩き、鉄の扉を居合で突破する。
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