何処へいこう
孤独堂
第1話 死についての超個人的見解
「だからね、突然授業中とかでも」
「うん?」
「あ、今なら死ねるなって思える時があるのよ」
瀬川美冬と、佐々木舞は高校からの下校途中だった。
二人は同じ中学出身で同じ高校に入り、一年は違うクラスだったが、二年のクラス替えで同じクラスになった。それ程仲の良い方ではなかったが、最近は一緒に帰る事が多くなっていた。
「例えばこうやって歩いてる時でも」
美冬が言う。
「うん」
舞が頷く。
「たぶんね、脳で考えたらOUTなの。死のうと思ってから色々準備とかして時間が経つと、脳が生き続ける方法を考え付く。生きる理由を見つけてくるの」
「それは死にたくないって事じゃないの?」
「うん。脳は死にたくないんだと思う。でもね、なんでもない時に突然、今なら死ねるって思える時があるの。数分だけど」
「その時に直ぐ死ねば死ねるって事?」
「多分そう。その一瞬、その一瞬ならきっと死ねるのよ。でも、考えちゃったら駄目。家族とか、周りの人とか、死んだ後の事とか。そういうのを考えたら駄目」
「ちょっと私には分らないな~。そういう事感じた事ない」
「それは脳で考えた事を自分の事として生きているから。最近私は脳を客観視して見てるの」
「客観視?」
「私の体は脳が支配している操り人形の様なもので、例えば体を傷つけて痛いと感じるのは皮膚が痛いのではなくて、脳が痛いと思わせている。味覚もそう、私の口や舌が感じているのではなく、脳に伝達された情報が美味しいとか思わせている」
「でも、それを考えている美冬も、また美冬の脳が考えている事でしょ?」
笑いながら舞が言った。
「そうなんだけど。私の体の何処かの小さな細胞に、脳とは別の本当の自分がいる様で、脳を客観視して見るの。すると突然急に、死にたい。今なら死ねるって」
「思えるの?」
「そう」
美冬は深く頷きながら言った。
「それに脳を客観視してると色々楽なんだ。どんな汚いものでも汚く感じないし、苦しみも痛みも、脳が思わせているだけなんだって思うと吹っ切れるというか、楽になる」
「ふーん」
「ま、舞も直ぐ分るよ。さっきの話だけど、安藤君の事」
「ああ」
舞は少し動揺したように言った。
舞は同じクラスの安藤が好きで先程まで美冬に相談していたのだ。
「舞、私より胸あるし、ルックスもいいから大丈夫だよ。私に任せて。明日の放課後には安藤君と付き合える様になってるから。そしたらさっき言った私の感覚も分るようになる」
「でも私、美冬みたいな美人さんじゃないよ」
「大丈夫。男は舞みたいな可愛い系が好きなんだよ。それに眼鏡女子も人気あるんだから。萌えるーって」
美冬は少し笑いながら言った。
舞は眼鏡を掛けていた。
「そうかな~」
駅前に着いたところで二人は別れた。
「何処か行くの?」
「ちょっと用事があって」
舞の問いに美冬はそう答えると、駅構内に入って行く。
美冬はまず女子トイレに入り、制服から私服に着替え、その後駅のコインロッカーに財布とスマホ以外全て入れると、三つ先の駅の切符を買い、改札を通った。
それから電車に二十分程揺られると、目的の駅に着く。
改札を出て、駅の外に出ると美冬は辺りを見回した。
見覚えのある車が一台止まっている。
美冬は直ぐにその車の側へと歩み寄ると、助手席側の方に立った。
車の窓が下がり、中からは決して格好良いとは言えない若干お腹の出た中年男性が顔を覗かせた。
「よう」
美冬は既に破綻していた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます