第14話
遠い空の向こう、星を越えて、銀河を越えて、その先には、何があるのだろう。
もしそこまで行けるのなら、きっと見つかるはずだ。光と闇が混在し、誰かの夢が誰かの希望となる世界。その名は、キラキランド。
「ヒャッホー‼大脱出だー!」
「お待ちください姫様!」
このキラキランドは、一つの王族によって守られている。そして、その女王と王女に宿るのが、闇を打ち破る奇跡の力、『ハピネスパワー』だ。
この力は、世界中の命に宿る光を己が魔法として行使できる。
女王は自分がその位についたとき、闇と戦う役目を自分の娘、つまり王女に託す。
だから『ハピネスパワー』の使い手はいつも、成人前の王女だ。
そして今の王女、カミアは、少々おてんば娘だった。
「姫様、また城を脱け出しましたね」
「大臣、だって、お勉強ってつまらないんだもん。私もう14よ?まだ勉強することがあるの?」
「王族というのは、常に学び続けなければならないのです。陛下もそう仰っていたでしょう?」
「ふん。お母様は頭が固いのよ。それに、城で勉強なんかしてたら、闇の怪物が現れたとき、戦いに行けないじゃない」
「闇の怪物が現れたら、すぐに城の魔術師が察知して連絡が入ります。そのことは以前にもご説明したはずですが?」
「そうだったかしら?忘れたわ」
「まったく、あなたというお方は、次期女王の自覚というものが...」
そのとき、大臣の元に使いの兵が走って来た。
「大臣殿!今、占いの魔術師から連絡が」
「何⁉」
兵は大臣に、耳打ちで何かを伝える。すると、大臣の顔が不機嫌なものになっていく。
使いの兵が持ち場に戻っていくと。
「闇の怪物ね!現れたのね!」
「...はい。西の町です」
「行ってくるわ、馬車を用意して」
「しかし姫様、お勉強の方は」
「後でいいわよ。こっちの方が大事じゃない!」
そう言う姫の顔は、怪物を倒す使命感ではなく、勉強から逃れる口実ができたことに、喜ぶ顔だ。
西の町に着くと、すでにそこは、怪物による破壊が始まっていた。
壊れる建物、逃げ惑う人々。
目的など無いかのように破壊を続ける怪物に、カミアは立ちはだかった。
「そこの化け物!暴れるのは止めなさい。この街には、お気に入りのお菓子屋さんがあるんだから!」
「あぁ、カミア様だ。カミア姫様だぞ!」
「本当だ、これでもう安心だ!」
「いくよ!ワッフル!」
「オッケー」
彼女のバッグから出ていた、小生物が答えた。普段バッグの中で休んでいる彼は、キラキランドに住む伝説の妖精一族で、カミアの相棒だった。
カミアは、色とりどりに輝く宝石がはまったペンダントをいつも身に着けていて、彼女はそれを握りしめた。すると、宝石が強く光を放つ。
「『マジックアップ・トランスフォーム』!」
カミアは白いドレス姿に変身した。
髪は金髪から桃色に変わり、大きく伸びて、背中に多方に垂れている。
「舞い踊る
「グロロロロ」
「さて、名乗りも終わったし早く片付けるよ」
KAMIAは空中に光を集め、杖状のアイテムを取り出す。
「レインボーステッキ!」
そのまま杖の先に光を集中させると、先端部文が虹色に輝きだす。
「『必殺、KAMIAエターナルレインボー』‼」
杖から発射された虹色の光は怪物の体を貫き、空に虹をかけた。
変身を解除したカミアは、馬車のもとへ戻る。
「やれやれ、僕っちの出番は無しか」
「落ち込まないでよ、そのうちあるわ」
馬車の中で二人がそんな会話をしていると、大きな音が響いた。
慌てて窓から外を見ると、そこには、煙を上げて燃える城があった。どうやら、さっきのは城の爆発音だったようだ。
「大変!城のみんなが‼」
カミアは再び変身し、窓から飛び出して飛行能力で城へ向かった。
塔の中に入ると、そこはまるで地獄だった。
辺り一面炎に包まれ、城の兵士たちが、大量の黒い何かに襲われている。闇の怪物に似ているが、怪物より小さく、人に近い形だ。
「レインボーステッキ!」
「『必殺、KAMIAレインボーシャワー』‼」
虹色の光を雨のように降らし、その黒い何かを一掃する。霧になって消えたことから見て、やはり闇の怪物の仲間だったらしい。
「姫様!どうしてここに‼」
「大臣!」
大臣は体のいたるところから血を流し、息も絶え絶えだった。
「さっき戻ってきたの。大臣その怪我、大丈夫なの⁉」
「私の心配より早く陛下の元へ、敵の大将とおぼしき者が陛下の部屋に」
「そんな、お母様。分かった、ここで待っていて、必ず助けに戻るから」
KAMIAが女王の部屋に向かおうとすると、大臣が叫んだ。
「姫様!」
「たくましくなられましたな、私はあなたを誇りに思いますぞ。必ずや、陛下と民をお救いください!」
「あたりまえよ!」
女王の部屋に着くと、黒いローブに仮面の男が、女王と向かい合っていた。しかし、女王の服装が違う。女王は、羽根の飾りがついた、白いドレス姿で、よく見ると、髪も若草色に染まっていた。
そう、女王は変身していた。
男が、低くしわがれた声でしゃべった。
「その姿になるのは、随分と久し振りじゃないか?
「余計な気遣いは不要よ、ナイトメア。まさかあなたが生きていたなんてね」
「驚いたのはお互い様だ」
ナイトメアと呼ばれた男が、こちらを見た。
「まさかお前に、変身できる娘がいたとはな」
サミア女王も、ナイトメアの視線を追ってこちらに気付いた。
「カミア!どうして来たの⁉危ないから下がっていなさい‼」
「おいおい、せっかく娘が来てくれたんだ。戦闘の補助くらいさせてやったらどうだ?」
「この子はまだ子供よ、この戦いに参加させるわけにはいかない」
「そうか、だがこっちは手加減しないぞ?」
ナイトメアが床に手をかざすと、床から黒い霧がわきだし、人の形を作っていく。そして、あの闇の怪物もどきになった。その数およそ30。
「君の腕がなまってないか、試させてもらうよ」
「フェザーブレード!」
サミア女王は長剣を呼び出し、次々に、怪物もどきを切り捨てていく。1体、また1体。残りが十数体になると、サミア女王は長剣を構え、飛び立つと、一気に滑空、残りを一気に斬る。
「『必殺、SAMIAフェザースラッシュ』‼」
怪物もどきを全て霧に変えると、今度はその長剣を、ナイトメアに向けた。
「現役時ほどではないが、まぁやるね。じゃあ、次は私の番かな?」
ナイトメアは片手を上に向け、そこに黒いエネルギーを集中させる。
「このブラックボールに耐えられたら、誉めてあげるよ」
ナイトメアはそのエネルギーを発射する。
KAMIAに向けて。
「え?」
KAMIAにブラックボールが直撃するその前に、サミア女王が間に立って自ら盾となり防いだ。
サミア女王はそのまま崩れ落ち、変身が解けた。
「お母様、なんで!」
「ほう、母の愛か。なんとも愚かだな」
サミア女王の体が透け始める。
「変身で、自分の生命力を削っていたか」
「お母様...」
「カミア、よく...聞いて」
「なに?」
「逃げて、ナイトメアは...あなたの敵う相手じゃ...ない」
「そんなこと、お母様を置いて逃げるなんて」
「私は...もうすぐ消える。そしたら、光の意思を継ぐ者は...あなたしか、いなくなる」
「でも、私一人でどうすれば」
「探すの、この世界ではない...場所で、闇を打ち破る、新たな戦士を」
「そんなこと」
「大丈夫、あなたなら...できる。だって...私の娘...なんだから」
「分かったわ、お母様。私、がんばるから!」
「信じてるわよ、カミア。それから、愛してる...」
サミア女王は、光の粒になって消えた。
カミアは泣いた。声もなく、ただ涙を流した。
だが、すぐに涙をぬぐい、ナイトメアに向き合う。
「別れの挨拶は終わったかい?」
「ワッフル、起きてる」
「あぁ、ずっと起きてるよ。僕っちの出番かな?」
「うん」
ワッフルは光となって、ペンダントと合体する。すると、ペンダントが銀の装飾をもった状態に進化する。
KAMIAはペンダントを握りしめる。
「『グレードアップ・プリズムオン』!」
KAMIAが虹色の光に包まれ、その姿が変わっていく。光が解けたとき、KAMIAは、虹色の光をその身に纏う強化形体、プリズムフォームになっていた。
「ほう、それから?」
「レインボーステッキ!」
「『超必殺!KAMIAプリズムレインボーフラッシュ』‼」
眩しすぎるほどの光が部屋を埋めつくし、その光が消えたとき、KAMIAの姿はなかった。
「逃げたか」
KAMIAは変身を解除し、国の外れの森を走っていた。
「逃げなきゃ、私が生き残らなきゃ」
「どこへ行く気だ?お嬢ちゃん」
目の前にナイトメアが現れる。
そして、カミアを突き飛ばす。
しりもちをついたカミアは、疲労と恐怖で立ち上がれなかった。
「君は見込みがあるからね。そのまま逃がすわけにはいかないんだよ」
ナイトメアは黒いエネルギーを片手に集める。
「ブラックタッチ」
その黒いエネルギーをカミアの胸に押し付けると、その姿を消した。
「なに...これ...体が」
黒のエネルギーは、徐々にカミアの体を黒く染めていく。それにより、体の自由が奪われていく。
「ワッフル...いる?」
「カミア、体が、黒く!早く、僕っちが」
「いいの。それより、これを」
カミアはペンダントを外し、ワッフルに渡す。
「あなたが...私の変わりに探して」
「僕っちが?」
「できるよ。だって、あんたは私の相棒...でしょ?」
「僕っちは」
「早く行って‼」
ワッフルは世界転移の魔法で消える。
それを見届けると、カミアは笑って。
「ごめんなさい、お母様、大臣、みんな。でもきっと...ワッフルが...」
その言葉を最後に、カミアは闇となって消えた。
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