第8話

 目覚めると、そこは見覚えのある魔法少女神殿。つまり俺の部屋だ。

時計を見ると午前6時だった。


「あれ、いつの間に帰って来たんだ?」


確かあの日は、凪と喜城兄妹と学校に忍び込んで...なんで忍び込んだんだ?目的は何だったけ。

駄目だ。その辺りが思い出せない。とりあえず部屋を出ると、ちょうど凪も部屋を出たところだった。

「あれ?お兄ちゃんが早起きなんて珍しいね」

「まあな。凪、昨日の夜、何してたか覚えてるか?」


「え~と、なんだっけ?」

「お前もか」

「それより、早く着替えてきて。朝ごはん作っておくから」

「あぁ」


その後は、特にいつもと変わりはなかった。

学校へ行き、大翔とくだらない話をして、帰ろうとした。

だがおかしい、いつも俺より先に校門で待っているはずの凪が、そこにはいなかった。辺りを見渡すと、校舎の裏に向かう凪を見つけた。

そのまま声をかけても良かったのだが、俺はなんとなく、後をつけてみることにした。物陰から覗くと、凪は、いかにもモブな男子(人のこと言えないが)と向かい合っていた。


「か、神谷さん!ずっと前から好きでした。僕と、付き合ってください!」


うわ、今どきそんなオーソドックスな告白するやついるんだ。


「えっとー」


凪は困り顔だ。あれは何度も見たことがある、どうやって断るか悩む顔だ。

告白の断り方は、とても重要だ。相手の覚悟を無下にせず、分かりやすく断る必要がある。惚れた理由が分かると楽だ。

「顔が好み」とか、「優しくされて嬉しかった」とか、「あなたの△△で×××したい」とか。

だが今回は、ただ、好きとしか言われていない。さぁどうする妹、時間がかかると相手に期待を持たせてしまうぞ。


「すみません、あなたとは付き合えません」


おっと、シンプルにシンプルで帰したか。でも、その言い方だと


「なんでですか?理由を教えてください!」


ほら、こうなる。


「えっと、その...」

「至らないところがあるなら直します!」


駄目だこれは。グダグダに続くやつだ。仕方ない。

「おい、凪、ここで何やってるんだよ」

「あ、おに...兄さん」

「早く帰るぞ」

「あ、あの神谷さん」

「ごめんね、そういうことだから」

「あ、」

俺が凪とその場を立ち去ろうとすると。

「こんなのは駄目だ...こんなのは僕の予定じゃない」

「お兄ちゃん、様子が変だよ!」

「?」

「こんなのは僕の望みじゃない...なんで僕じゃ駄目なんだ」

モブ男(仮)から、黒い霧のようなものが出ている。

「なんで...なんで僕じゃ駄目なんだ...なんでそいつとはいいんだ...なんで...なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」

「おい、お前」

黒い霧がモブ男(仮)を呑み込んでいく。

「駄目だ...神谷さんの隣にたつのは僕じゃなきゃ...よくもよくもよくもよくもオオオオオオオ!」

黒い霧はモブ男(仮)を完全に呑み込み、巨大な怪物となった。

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