191 英雄からの問いかけ

 報酬を受け取り、コリンさんの家に戻る。


 ちょうど、昼食の用意をしているところだった。


 白身魚のパイ包み焼きにカボチャのスープ。いい匂いがしている。


 ニーニャとミーニャはソファーでエターナとほーちゃんと遊ん出来上がるのを待っている。


 にゃんこ共はテーブルを囲んで、あーでもない、こーでもなとしきりに首を傾げている。なにしてんだ?



「どうしたんだ?」


「あっ、ルークにゃん!」


「トム殿の日記帳と地図を解読中なのだよ」


「全くわからないわ。これは暗号ね」


「……(コクコク)……」



 見せてもらうと翻訳は終わっている。が、日記帳を読んでみると意味不明の言葉の羅列だ。なるほど、わからん。地図に書かれているのも同じようだ。


 暗号化するほどの内容なのだろうか? にゃんこ共、頑張って解いてくれ。解けたらご褒美あげるからな!



「本当にゃ! 約束にゃよ」


「やる気が出てきたな」


「単純でいいわね……」


「……(コクコク)……」



 どうやら、パイが焼けたようだな。にゃんこ共! 撤収。


 パイは大きな器が二つだ。重そうなので俺が運んだがこれは結構な量だぞ。トラがいるから問題はないか……。


 コリンさんとレイアがみんなに取り分け、



「「「頂きまーす」」」


「あーい!」


「ウミャッ!」



 コリンさんがニーニャを、レイアがミーニャの面倒をみながら食べる。


 パイの焼けた香ばしい匂いと、白身魚に使ったハーブの香りが食欲を煽る。小皿にさくら用に白身を取ってほぐしてやる。


 さくらは、食べていい? 食べていい? とばかりに俺と白身を交互に見ている。



「はい。どうぞ」


「ミャ~」



 美味しそうにハムハム食べてる。俺も頂きますかね。


 ほどよいバター風味でハーブの香りのついた白身は最高。魚の旨みを吸い内はしっとり、外はパリパリのパイも絶品。素材の旨みを活かした裏ごししたカボチャのスープも格別だね。このカボチャ、野菜おばさんのものに違いない。


 にゃんこ共もおとなしく上品に食べてる。いつもこうして食べて欲しいものだ。まあ、コリンさん効果だろうけどな。


 さくらもニーニャもミーニャも満足顔だ。たまには手料理もいいよな。おふくろの味ってやつだ。ニーニャもミーニャには大事なものだ。


 午後もまったりのんびりしてから降魔神殿に戻った。


 部屋に戻ると、この時間には珍しくファル師匠がいた。


 ミーニャが眠そうなので、さくらと一緒にベットに寝せレイアに任せる。ニーニャはファル師匠に抱っこされている。ファル師匠のお髭がお気に入りだからな。



「ルークよ。ひとつ聞かせて欲しい」


「なんでしょう」


「お主の真の目的はなんじゃ?」


「真の目的?」


「儂はこれでも長く生きておるので、人を見る目はあると思っとる。しかし、そんな儂でもお主という男がよくわからん。ある時は純粋で、ある時は目に余るほどの悪に染まる。どちらが本当のお主なのだ? 正直、儂はお主が恐ろしい。先代様に頼まれた故、お主を弟子に取ったが、間違いであったかとさえ思うときがある」


「……」


「しかし、このニーニャ嬢ちゃんをはじめ、ケットシーなどに信じられぬほど信頼されとるのも事実。さくら殿やこの場にいる者と接しとる姿を見る限り、只の悪人には見えん。お主一体何者じゃ?」



 何者じゃ? って言われても、困るんですけどねぇ。



「ひとつだけ確実に言えることは、おれのの周りにいる愛する者を守りたい。これは嘘偽りのない真実です」


「他を犠牲にしてもか?」


「程度にもよりますが、そのとおりです。みんなを守る俺の腕はそんなに長く頑丈ではありません。ですから、守りきれないと判断すれば、優先順位で切り捨てる他ありません」


「最初から見捨てると言うのか?」


「でしから、そう判断した場合です。馬鹿は最初から切り捨てますが、赤の他人を救うために、身内を犠牲にすることはないということです。救える命は救いますよ。多分、おそらく、xメイビー?」


「多分なのか……」


「そこは価値観の相違ってやつです。この世界に取って大事な人だと周りが言おうが、俺に取って価値のない存在であればなんの躊躇もなく切り捨てます。そう言う人は大事だと思ってる者が救えばいい」



 己の価値観を、人に押しつけるのは迷惑千万。そういう奴に限って自分では何もしないなんてことが多々だ。



「……」


「それで、覚悟は決まりましたか? 聞かなかったことにして、今までどおりでも構いません。ファルング様には俺とうさ子の師匠として敬意を持って接します。この場所でよければ我が家と思いお使いください」


「しかし、儂は世界の変動からは追い出される……のであろう?」


「私もファル師匠の目的を知りません。その目的が私たちと交わるのか、平行線なのかは判断が付きかねます。そうなると、あまりうろちょろされると、こちらの計画に支障がでる可能性があります。それは、致し方ないことです」



 ファル師匠がニーニャの頭を撫でながら、考えこんでいる。



「……わ、儂はある魔王を探している。その魔王だけは儂の手で消さねばならぬ……」



 押し殺した、絞り出すような声を出す。



「ふむ。それでは確認しますが、全ての魔王を滅ぼしたいということではないのですね?」


「相手による。滅ぼさねばならぬ相手なら滅ぼすまで」


「魔王の全てが悪ではないと信じられますか?」


「わからぬ……そんな魔王を見たことも聞いたこともないからのう」



 さて、どうするか。ファル師匠には手を貸してほしい。目的は魔王の一人らしいしな。なんなら手伝っても構わない。問題は魔王というものにどれだけ拒否反応があるかだ。


 こうなると、一種の賭けだ。飴もハッカガムもハッカ……もとい、当るも八卦当らぬも八卦などという余裕はない。白黒コンビの弟子でうさ子の師匠の現拳聖。信じるに値する人物ではある。信じてみようか?


 その前にデルタを呼ぼう。何かあったら困るからな。一応、予防線は張っておかないと。うちでファル師匠とタメを張れるのはデルタぐらいだからな。


 周りにニーニャなどもいるから無茶なことはしないと思うけど、保険は大事。



 俺が相手だとおそらく瞬殺で終わる。俺がな。





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