第10話 困惑せし者。
俺は朝、いつも通りに起こしに来た神父さまに頼み事をした。畑を守るあるモノを作りたいので手先が器用な人や協力してくれそうな村人を紹介して欲しいと頼んだのだ。
村長に掛け合ってみるといってすぐに部屋を出て行こうとした神父さまを、俺は呼び止がめた。
「神父さま、フィルスさん……フィルスさんは大丈夫ですか?」
「大事をとって教会の仕事は休ませていますが、本人は大丈夫だと言っておりましたよ。昨日は私も慌てていてちゃんとお礼も言わず、申し訳ありませんでした。勇者さま、溺れて死に掛けた娘を救って頂き本当にありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ娘さんを危ない目に合わせてしまい申し訳ありませんでした」
二人して頭を下げ合うお辞儀合戦になってしまった。この数日一緒に暮らして分かったのだが、神父さまは娘のフィルスを溺愛していた。神への信仰一筋であった自分に暖かい灯火をくれた宝物であると語った。
その宝物を奪う
彼女の無事を確認出来たし、あとで見舞いにでも行くとしよう。それよりも今日は昨日の【キングマイマイン】の爆発現場を確認に行かなければならない。昨日あの爆発のあと、村の有志を募って西の森へと様子を見に向かったらしいのだが、焼けた森の熱と匂いが酷く近づけなかったそうだ。ゴブリン共もどうなったか分からない。だから俺が様子を見に行く事を提案したのだ。
「たぶん、昨日の爆発でゴブリンは全滅したと思いますが、まだ何か危険があるかも知れません。俺が一人で確認しに行ってきます」
「御一人で大丈夫ですか?」
「いざとなったら全力で逃げますから」
神父さまは『またまた、ご冗談を』と言って笑いながら部屋を出て行ったが俺はいたってマジである。昨日戦ったゴブリンも1体ならどうという事もない敵であったが100体を相手にするとなると話は別である。ゲームのレベル上げじゃないんだから、疲れたらセーブして休むって訳にはいかないんだ。
「ティー、昨日あの場所にゴブリンに何体位いたんだ?」
『さぁ? ティーにも分かりません。逃げるの必死でしたから。』
「お前途中から俺の服の中にいただろ。」
『ティーだっていっぱい頑張ったんですよ。なのに力づくで押さえつけられて、無理矢理突っ込まれて、落とされて濡らされて、痛くて悲しくて、全部終わったら放置ですよ。』
「お前、なんて人聞きの悪い言い方するんだ! 何も知らない人が聞いたら………はっ!」
部屋の扉の影から顔を半分だけ出してこちらを覗き込んでいる人影がある。うーん、不味い……フィルスさんだ。ジト目でこちらをにらんでらっしゃる。なんていつも間の悪い。でもまあフィルスさんにはティーは見えないし、声も聞こえない。今回俺はヤバい感じの台詞は言ってないし、独り言で押しきろう!
「勇者さま、そちらの妖精さんにいったい何をなさったんですか!?」
ヤバい、こちらをにらみ続けるフィルスさんはいきなりの直球どストライクの質問だ!
「これ、み……見えてる?」
俺はティーをつまんで、彼女の方に見せるとコクコクと首を縦にふった。
彼女は話し声が聞こえたので部屋をのぞくと………。
「力づくで押さえつけられて、無理矢理つ……突っ込まれたと。妖精さんが……」
でーすよね。フィルスさん、いつもバッチリのタイミングで間の悪い。あーもうなにを言っても言い訳にしか聞こえないだろう。
「あー、大丈夫です勇者さま。若い男性ってそういうものですから、大丈夫、大丈夫です」
あの━━フィルスさん、それって大丈夫感ゼロですぅ。
顔を両手で覆って心で泣いている
『ボクの名前は【ティー】マスターのお手伝いをする為にエルム様に作って頂いたサポート妖精です。宜しくね』
「女神さまがお造りになった………。ティー様、こちらこそ宜しくお願いいたします。ティー様はいつからこちらにいらしたのですか?」
『最初からだよ。初日の晩、シスターモモがうなされてるマスターの汗を拭いてあげてるのも見てたし』
「えっ、あの夜そんな事してくれてたの?」
今度はシスターモモが恥ずかしがりながら、両手で顔を隠してしまった。それにしても、何でフィルスさんにもティーが見えるようになったのだろう。俺はティーに聞いてみた。
『それはたぶん、シスターモモがマスターにパートナー登録されたから……だと思います』
「あー、あのパーティー登録的なヤツね。」
「違います!! パートナーはお互いを必要とし、求める者にのみ………啓示されるの………です。だから、だから私は!」
彼女は走り出し部屋を飛びだした。どういう事だ? 何がなんだか……わかんねぇ。
『マスターすみません。森でゴブリンと戦闘中であった為、ボクがきちんと説明していませんでした。マスターがこの手の事が苦手できっと悩んでしまうと思ったので』
「どういう事だ」
『パートナー登録されたという事は相手の【想いを受けとった】という証です。シスターモモにも何らかの啓示が出ているのでしょう。最終的にそれに
俺しだいと言われても、本当に困るのだ。今までの28年間、良いなぁって思う娘や好きな子がいた事だってある。でも告白は一度もした事がない。顔がいい訳でも成績が良い訳でもなく、何をやっても下から数えた方が早い俺なんかにそんな権利はないって思っている。そう、あの時どんなに頑張っても何も変わらなかった。過去の苦い経験による自分への自信のなさがそうさせているのだ。
「ティー、俺、西の森の様子を見に行って来るわ。お前はお留守番で」
『マスター、シスターモモを放っておくのですか? フィルスさんの事が好きではないんですか?』
「彼女は可愛いし、好きだとは思う。けど、俺はこの世界の人間じゃない。この先自分がどうなるかも分からない。彼女の気持ちは素直に嬉しいけど、好きとか嫌いとかそんなに単純な事じゃない。どうしたらいいか俺だって分からないんだよ。だから独りで考える時間が欲しいんだ。ごめん……」
俺は着替えて部屋を出るとフィルスさんの部屋に寄った。ノックをしたが出てくる様子はない。
「フィルスさん、おれ西の森の様子を見に行って来ます。帰ってきたら少しだけ話しを聞いてもらえませんか?」
「…………」
「行ってきます」
俺は教会を出て、西の森へと歩き出した。
ーつづくー
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