第3話 カツアゲ
「ギョハハ!! お前くっそ弱いな」
「ほら、さっさと出せよ!」
「うっ、もう、勘弁してください……」
どこからか下品な笑い声が複数聞こえてきた。
和樹と雪は声のする方向を見る。近くにあるゲームセンターで中学生ぐらいの男の子とガラの悪い高校生ぐらいの男子が三人ほどで男の子を囲んでいた。
(カツアゲか? ああいうのは無視するのが一番だな)
和樹は速攻で中学生を見捨てるように顔を逸らす。
が、一方で雪は鋭い目を彼らに向けていた。
彼らはその間にも中学生に詰め寄る。
「おい、柊、どうした?」
「……」
「おいって、聞こえてるのか?」
和樹の言葉が聞こえていない様子の雪。
次の瞬間、雪は彼らに対して声を上げていた。
「ちょっと君たち!」
「んあ?」
「ちょっ、おい、柊!?」
止めようとする和樹を振り払って雪はズカズカと近づく。
高校生組の傍まで来ると雪は中学生を背中に隠すように立ちはだかった。
「三人で一人をいじめるのはいけないと思うよ。それも年下の子なんて」
「ああ! なんだてめぇ、文句あんのか?」
(うわー、面倒な事になったなー)
呆然とその光景を眺めている和樹は、どう対処しようかと必死に頭を回転させていた。
そんな和樹におかまいなく雪は勇敢に立ち向かう。
「俺らただこいつとゲームしてただけだし」
「……そうなの?」
前を見たまま雪は中学生に訊く。
彼は怯えた表情を浮かべていたがしっかりと首を横に振った。
「この人たちが急にカツアゲしてきて、それで、ないって言ったら、その、ゲームして勝ったら見逃してやるって……」
中学生はそう言いながらゲームセンターの外に設置されている一台のゲーム機を指差した。
「僕、何回も負けて、お金結構取られたのにまだ続けようって……」
最後の方は小さくてよく聞こえなかったが大体の事情を二人は把握した。
雪は怒気を含んだ目を高校生たちに向ける。
彼らは今度は開きなおったかのように口を開く。
「じゃあ、なんだっていうんだよ。それで承諾したのそいつだぜ? 文句言われる筋合いなんてないよなぁ」
一人が後ろの二人に同意を求めるように言った。
案の定、他の二人も彼の言葉に頷く。
「でも、そういうのいけないと思うよ。この子から盗ったお金返してくれないかな?」
「だから、この金はこいつが承諾した上でくれたんだぜ。まぁ、どうしてもって言うんなら……」
そう言うと一人がニヤニヤとした顔で雪の腕を掴む。
「あんたが俺らと遊んでくれるってんなら返してやらんことでもないぞ」
「「ギョハハ!!」」
下品な顔で腕を掴まれた雪はその手を振り払おうとするが女子の力では無理な話である。
中学生は怯えきっておりどうにか出来そうにもない。後ろの二人が品のない声で笑い、周りに響かせる。
そして、さっきまで強気だった雪の顔にも怯えが出てきた。怖くなり目をぎゅっと閉じたその時だった。
「はい。そこまで」
和樹が雪の腕を掴んでいた男子の手を無理やりはがし、今度は和樹が雪を背中に隠す姿となった。
「んあ? なんだテメェは」
突然の和樹の登場に眼付ける。和樹はその目に怯む事なくどうでもいいような視線で返す。そして、おもむろに口を開く。
「あの、この子から取ったお金返していただくことできませんかね?」
「はぁ、さっきも言ってるがこいつとの賭けで勝った金だぜ。それとも何か? 今度はお前が勝負しよってのか?」
相当自信があるのだろう。先頭の男は堂々とした立ち振る舞いを見せる。
和樹の様子をそっと窺う雪。彼女は和樹がどういう反応をするのか気になった。和樹は涼し気な顔をして言い放った。
「いいですよ」
「はぁ?」
「勝負、しますか?」
「テメェ、舐めてんのか? 調子に乗るなよ」
「いいえ。調子になんか乗ってませんよ、それともあれですか? 自信、無いんですか」
「こ、のテメェー……!」
和樹の一言に男の顔が赤くなるのが確認できる。中々、単純な奴のようだ。
「あ、あの白井君、大丈夫なの?」
「さぁな? ま、なんとかなるだろう」
後ろにいる雪が和樹を心配そうに見上げる。頭一つ分ほどの身長差の彼が見下ろす形なる。
「よーし、そこまで言うんならボコボコにしてやるよ」
男はさらに言葉を続ける。もちろん、ボコボコにするというのはゲームでということだろう。
「お前が負けたら、有り金全部寄越してもらうぞ」
「いいですよ。じゃ、俺が勝ったらこの子の金を返してもらうって事で」
互いに賭けるものを提示すると二人は店の前に置いてあるゲーム機に並ぶ。
ゲーム機の外装はまるでベットのように横長なもので、奥を見ると小さいヘルメット型のVR機が置いてある。VR機が大量に生産されている現代、こういった小さいゲームセンターにも置けるようになった。そこがまたBGOなどのゲームが爆発的に売れた理由の一つだろう。
和樹は小銭を払うとゲーム機の上に寝転ぶ。そして、置いてあるVR機を被ると和樹の頭を完全に覆った。VR機を被り終えると和樹は目を閉じ、ゲーム開始を待った。
待つ事数秒、和樹の耳に感情のないエコーがかった声が入って来た。
『それでは、ゲームを開始します』
その言葉を聞き終えて目を開けると目の前には廃墟ビルが建っていた。見渡せば、同じようなビルが数軒存在していた。和樹はその現状を冷静に分析する。
「なるほど、VR型FPSか」
そう、和樹が今プレイしているのはVR型FPS、つまりシューティングゲームである。このゲームはおそらく自分が持っている銃を使って相手を撃ち、相手のHPを0にした方が勝ちのようだ。
和樹は自分が持っている銃を適当にいじくる。
「一回で撃てるのは6発、リロードは銃を上から下に振ると出来るのか……」
分析が終わると再度辺りを見渡す和樹。一緒に始めたはずの男子の姿は和樹の視界には映らないがとりあえず、その辺を歩き始める。
ビルとビルとの間を歩くながら和樹は自分の視界に映るコンテンツを眺めた。視界にはいくつかのコンテンツが設置されていた。右下には和樹の周囲のマップを表し、左上には自分のHPと銃の残弾を表している。
コンテンツを眺めながら歩いていると、和樹の前方からピカッと光りが発生した。それと、同時に和樹のHPが少し減る。それを合図に次々に銃弾が飛んでくる。
「わ、わわわ」
慌てて和樹は、近くにあった瓦礫に隠れる。HPが少し減るところを見るとどうやら敵の攻撃を受けたようである。痛みなどは感じられなかったから気づくのに遅れてしまったようだ。
和樹の姿が確認できたようで相手は銃弾の嵐を瓦礫に浴びせる。その嵐を受けながら和樹は異変に気が付く。
「リロードしない?」
和樹と相手が持っている銃は同じはず。ならば、一回で撃てる弾数は6発、それが尽きるとリロードをしなければならないはずだ。しかし、相手がリロードする気配が見られない。
不思議に思って和樹は瓦礫の陰からそっと相手を確認する。砂埃が立ち込める中、相手の持っている銃が和樹の目に入った。それは和樹が持つ銃とは違うものだった。
相手が両手で抱えているのはサブマシンガンだった。サブマシンガンとはマシンガンの発展系として発明された小型機関銃のことである。サブマシンガンの強みは通常のハンドガンとは違い長い連射を可能としていることである。恐らくあれは何十発、もしくは何百発も撃てるのだろう。
そう相手を観察するが分からないことがある。
「なんで武器に違いが?」
「びっくりしたか? このゲームはな、フィールド内にいくつか違う武器が落ちてんだよ」
和樹の疑問に気づいたのかご丁寧に説明してくれた。和樹の行動に自分の有利が確信したんだろう。和樹は自分のマップを確認する。すると、和樹からちょっと離れた地点に赤い点があるのに気づく、多分、これが武器を表しているのだろう。だが、ここからじゃ遠くて拾いに行けそうにない。
隠れていてもしょうがないので瓦礫の陰から銃を撃つ。が、相手の足元に弾丸が当たる。
「はっ! 自信あった風だったがド素人だったかよ」
男は和樹の射撃を見て、二ヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「っち、戦略的撤退……!」
相手の隙をつき瓦礫から飛び出す和樹。相手はすぐに弾丸の嵐を浴びせにかかった。ついでに和樹は相手に発砲を試みる。しかし、銃がブレて安定せずに大きくはずれる。全力疾走で逃げる、ダメージを多少受けながらもなんとか相手と距離をとることに成功した。
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