第15話 魔王、国を買う

「なああああにしとんじゃああああああ!! このクソ親父はああああああああああ!!!」


「い、痛い痛い! 七海ちゃん! 首! 首思いっきり絞まってるから! 絞まってるから!」


 締めてんのよ!

 とか、そんなことを叫びながら私はオーリこと、パパの背後に回ってその首を思いっきり締め上げていた。

 というか、なんで思いっきり若返っとるじゃ―――!!


「こ、これはだねー……。い、いわゆる魔力で外見を若返らせているんだ……。ま、まあ実際にパパの若い頃はこういう外見だったわけで……。な、なかなかのイケメンで七海もちょっとはときめいた、だろう……?」


 ええ、そうね。確かに素直にイケメンと思いましたよ。

 けど、逆にそれがムカつくのよと、私は首を絞める力を更に強める。

 さすがにパパも苦しくなってきたのか「ギブギブ……!」と降参のタッチを何度もする。

 まあ、さすがにこちらも疲れてきたので、ゆっくりと腕を離した。


「で、なんでこんなことしたの?」


 というか魔王の仕事はどうした? と思わず問いかけると、


「勿論! 七海の手伝いをしたかったからさ!」


 と爽やかな笑顔を向けるパパに対し、私は遠慮ないボディブローを決める。

 見事にみぞおちに入ったのか十秒くらいパパが悶絶しながらうずくまる。


「というかパパって魔王なんでしょう!? こんなところで娘にかまけてていいの!?」


 この間、会った時は上に立つものは下に立つ者のためになんちゃら~とか、大企業の社長みたいなセリフはどこに言ったの?


「何言ってるんだい! 娘の初の魔物討伐なんだよ!? パパが参加せずして誰が参加するの!?」


 とか、逆に興奮した様子で語りだした。


「思えばパパは七海の授業参観に一度も参加したことがなかった。そう、それがものすごい後悔でね……。運動会とかで、親子参加リレーとか親子で何か共同の事をするのに憧れてたんだ……。そういうチャンスがやっと巡ってきたんだよ! 一緒に参加して何が悪いの!?」


 逆ギレ? 逆ギレか?

 というか、授業参観とデュラハン退治を一緒にしないでいただきたい。


「それにパパには四天王っていう頼れる部下達がいるから! 魔王の仕事も世界征服の侵略も代わりに彼らがやってるから安心だよ!」


 それ、人間側からしたら全然安心じゃないよね。と思わずツッコミを入れる。


「で、これからどうするの? まさかこのまま私についてくるつもりじゃないよね?」


「ダメかな? だってオレと七海ちゃんってパーティじゃん」


 何いけしゃあしゃあと言ってんのよ。


「まあ、何はともかく依頼は達成できたのですから、街へ戻って報告致しましょう」


 気づくと離れた位置に立っていたイブリスがそう提案してきたので、とりあえずそれに従うことにした。

 なお帰り道中、パパがスマホの返信についてしつこく追求していたが、完全無視を決め込んだ。


◇  ◇  ◇


「おい、見ろ! 救世主様だ! 救世主様が戻ってきたぞー!」


「すげえ! 全くの無傷だぜ!」


「なんでも確認のために向かったギルドメンバーの話では廃墟にいたデュラハンの軍勢が影も形もなくなってたらしいぜ!」


「マジかよ! あのデュラハンを倒すなんて、さすがは救世主様だ!」


「さすがは魔王をフルボッコにした勇者様だ! あの方さえいればこの国は安泰だー!」


 街へ戻ってそうそう、私はそんな街人達の熱烈な歓迎と祝福を受ける。

 道行く人々に感謝をされたり、握手を求められたり、マジでどこのアイドルだろうか。

 そんなことをやっていると、私に近寄ってきた兵士の一人が私の後ろにたオーリへと視線を移した。


「時にナナミ様、見慣れない方が増えておりますが、そちらは……?」


「ああ、この人はそのー」


「オレの名前はオーリ。こっちの七海ちゃんの仲間さ!」


 堂々と爽やかな笑顔で仲間宣言をするうちの父親こと魔王。


「おお、そうでしたか! いや、さすがはナナミ様のお仲間ですね! 溢れ出る魔力が普通とは違いますよ!」


「いやー、それほどのこともあるかなー」


 褒めてるところ悪いですけど、兵士さん。

 その人、つい少し前にこの街の壁に風穴開けて侵略してきた魔王ですから。

 まあ、そんなことを心の中で呟きながら、私は気になったことをパパに問いかける。


「そういえば、パパ。この街に滞在するなら宿とかどうするの?」


「ん、ああ、問題ないよ。ついこの間、この国の領土と貴族邸のほとんどを金で買い取ったから、そのへんの館で適当に寝るから」


 ちょっと待て。今なんつった?


「あれ、言ってなかったっけ? もうこの国のほとんどはパパが買い取ったから、事実上の支配者は私だね。一応、お城には王様とかがいるけど、表向きな政治や管理を任せてるだけだね」


 おいー! こらー!! お前なにしとんじゃああああああああ!!!

 思わず襟首引っつかんで、全力で突っ込むもののパパは必死に言い訳がましく説明してくる。


「だ、だって、七海ちゃんが侵略とか良くないって言うから……! パパ戦略を変えて、お金で人間達を抱き込む作戦に出たんだよ……! そ、それにここの国の王も大金叩いたら喜んで権利とか土地とか売ってくれたよ……! だ、誰も傷つけてないし、いいじゃないか……! ぼ、暴力反対……!」


 そういう問題じゃねぇんだよ! となおも首を絞めようとしたが、さすがに大通りだと目立ったため、周りの人達がざわざわと騒ぎ出したのに気づき、慌てて手を離す。

 い、いかんな。このままじゃ、私のキャラが完全なキレキャラになってしまう……。


「ま、まあ、そういうわけでしばらくはこの街に滞在するから、七海もよければうちの別荘に遊びに来てよ! 広くて楽しいよー!」


 などと戯言を言っているパパを無視して、私はいつもの宿へと早足で帰っていく。

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