第4話 街に着いたら、魔王とエンカウントとかおかしくね?
「着きました。ここは人族が管理するルーデリア王国の首都のアーリナです」
「へぇ、さすがにファンタジー世界だけあって建物とか歩いてる人も本当に中世ね」
あれから約一時間。遠くに見えた街に向けて歩き出し、ようやく到着した私は門を潜った先に見える様々な建造物とその周囲を歩き回る人達を興味深く見ていた。
そこはまさにゲームや漫画でよく見ていたファンタジー世界の建物が並んでおり、歩いている人達もまさに冒険者、魔法使いといった格好の人達であった。
前に映画とかで見た腕輪物語や、ホリー・ポーターの世界観がそのまま目の前にある感じ。物凄く圧巻。
思わず息を呑んで周囲を観察していた私を珍しく思ったのか全身を鎧で包んだ兵士っぽい人が話しかけてきた。
「やあ、ようこそアーリナへ。君達、冒険者かい? 随分と珍しい格好だね」
「あ、え、はい、ま、まあ、そうですね」
その兵士さんに指摘されて私は思わずギクリとしてしまう。
それもそうで、今私が着ているのは高校の制服。スカートはヒラヒラだし、周りを歩いてる人達の格好と比べてもすごく浮いてる。
中には物珍しげに私を観察してる人達もいた。
「まあ、なんにしても歓迎するよ。女性二人だと魔物や魔族に襲われて大変だったろう。ここに来るまで大丈夫だったかい?」
「あー、はい、何度か襲われましたけれど、連れがなんとかしてくれたので……」
「そうか。ひょっとして君達、見た目よりもレベルがあるのかな?」
「あ、あはははー、どうでしょうかねー」
兵士の質問に私は曖昧に笑って誤魔化す。
私はともかく隣にいるこの堕天使はマジで強かった。
あれから何匹か雑魚モンスターが襲ってきたけれど、ほとんどこの堕天使のワンパンで沈んだ。
その後、強そうな魔物も現れたんだけど、この堕天使に睨まれただけですぐさまビビって退散した。
まあ、堕天使っていうくらいだし、かなり強いことだけは分かった。
「まあ、この都市に居れば安全だからゆっくりしていきな。何しろこの街は周囲を全長十メートルを越える壁で覆われ、唯一の出入り口も巨大な門があり、魔物の軍勢が来た際にはすぐに閉じられる仕組みになっている。それにこの街には名のある冒険者や兵士、傭兵も常に駐在しているからね。ちょっとやそっとの襲撃じゃビクともしないから」
「あー、それは安心ですね。良かったー」
兵士からの説明を聞き、思わず安堵する私だったが、次の瞬間――
『ドゴオオオオオオオオオオオンッ!!!』
地面が揺れるほどの爆音と共に私達の隣に存在した壁に巨大な大穴がポッカリと空いていた。
何が起きたんだろう、と恐る恐る穴の空いた壁を見ると、その向こう側にびっしりと地平線を覆い尽くすほどの魔物やら魔族っぽい人達が並んでいた。
ついで沸き起こる民衆の叫びと混乱。
「う、うわああああああああ!! ま、魔族の軍勢が襲ってきたぞ――――!!!」
「に、逃げろおおおおお!! 皆殺しにされるぞ――――!!!」
「こ、この街はもうおしまいだ――――!!!」
一目散に逃げ出す周囲の人間。というか、さっきまで話していた兵士も真っ先に逃げ出してるし!?
おおーい! ここは絶対に安全な街じゃなかったのか! 着いて速攻侵略されてるぞー!?
というか、転生した先でゴブリンに襲われ、着いた街は侵略を受けて、私の人生無茶苦茶過ぎない!?
「ちょっと堕天使! ここ襲われてるみたいだし、どこか安全なところに逃げられないの!?」
「無理ですね」
「なんで!?」
さらりと返した堕天使に思わず突っかかる私に、堕天使はさらにとんでもない事実を言い放った。
「だって、ここを襲いに来ているのは魔王ですから」
「………………はい?」
ちょっと待て。今、なんて言った?
魔王? 魔王というとあの魔王ですか?
ファンタジーの定番。この世の支配者。悪の王。物語の黒幕。最後に戦うべきラスボス。
その魔王様でございますか?
「はい。その魔王様でございます」
………………。
「ふっざけんなあああああああああああああ!!!」
思わず大絶叫。
堕天使の襟首を掴んだまま、激しく首を揺らす。
なんで異世界に転生してそうそう魔王と出くわさなきゃならないんだー! というか、魔王ならもっと城の奥深くで勇者が来るのをあぐらかいて待ってろよー!!
そんなツッコミをしていると再び轟音と共に私から見て右側にあった壁が完全に砕け散り消滅した。
うわー、見晴らしいいなー。とか思っていると、土煙の中、こちらに近づく一人の男の姿が見えた。
背丈は一般的な成人男性ほど。悠然とした歩き方にはある種の気品が立ち込め、その男が近づくごとに明らかに周囲の空気が重く変質していった。
一般人な私でもわかるほどの魂と存在力の桁が違う男。
「――ふん、随分と土臭い街だな」
その男は土煙の中から現れると同時に、鼻を鳴らしながら呟く。
それはあまりに美しい男であった。
闇のような漆黒の髪、紅蓮に輝く瞳は夜に浮かぶ真紅の月のようにおざましさと同時に得も言えぬ美しさを放っていた。
そんな一瞬、呼吸を忘れるほどの男の容姿に周囲の全員が固まり、次の瞬間、男の唇からこぼれたその言葉が止まった時間を動き出させた。
「初めまして、人間諸君。私がこの国を占領しに来た――魔王ユートだ」
男がそう名乗ると同時に、その場にいた全ての民衆が声を一つにして叫び出す。
『ま、魔王だ―――――!!!』
魔王の自己紹介を聞くや否や、民衆達は我先にと脱兎のごとく逃げ出す。
気づくと周囲には私と堕天使以外誰もいなくなり、目の前には魔王を名乗った男と、その背後に無数の魔物の軍勢。
普通なら卒倒しかねない状況であったが、今私はそれ以上の衝撃を受けたまま、固まっていた。
それは魔王を目の前にしたからでも、死の恐怖を感じたからでもない。
そんな恐怖や絶望を上回るほどの圧倒的衝撃。
それは、あまりにありえないその男性との――再会にあった。
「ぱ、パパァ~~~~~~!?」
その日、私、世良七海は十数年振りに父との感動(?)の再会を異世界にて果たした――。
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