KAC2023 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2023~

【1回目お題:本屋】図書館併設の本屋は、本日も人気みたいです


 とある世界にある、アルテナ国。

 そんなアルテナ国には、とある図書館併設の本屋があった。

 王都の一角にあるそれ・・は、国内の様々な本や書物を収蔵しているとされる王城図書館の蔵書量を遥かに越え、国土が世界一ともされる国ですら得ることの出来なかったとされるものまで所蔵していることから、『人生で一度は行ってみたい場所』の一つとして選ばれることもあった。

 さて、この図書館併設の本屋こと【ルヴィエール図書店】は、一・二階を購入可能な本屋とし、三階から五階を貸し出しオンリーの図書館としている。


「よし、これにしよう」

「一体、どこにあるんですの!?」

「おい、誰だ! こんなところで魔法を発動しやがったの!!」

「ぎゃーっ! こっちに来たーー!!」


 ――とまあ、騒がしいながらも、庶民から貴族や王族。さらに、エルフやドワーフといった種族など、その利用者も目的も様々である。

 そして、今日も……


「誰かそいつ捕まえて! 持ち出し厳禁なのを持ち出した!!」


 三階から本屋側に向けて、声が響く。

 三階からなので、おそらく図書館司書のものだろうが、焦った様子の声に、本を持ち出した男はぎょっとし、本屋側の店員たちはその目を出入り口へと向ける。


「――了解しました」


 本屋に来ていた人々も何事かと目を向ける中、店員側からその意が伝えられる。


「きゃああああっ!!」


 そして響き渡る、本屋側からの悲鳴。


「どうしました?」

「ひ、人が飛び降りて……」


 悲鳴の主のもとに別の店員が駆けつけて話を聞けば、そう説明される。

 それを聞いた店員は、現状を把握するために下を覗き込み――理解した。


「すみません。それは多分、私の同僚です。おそらく、さっきの持ち出し犯を捕まえに行ったんだと思います」


 推測でしかないが、きっと階段を通って見失うより、吹き抜けを降りた方が早いと判断したんだろう。

 あの同僚であれば、上手いこと着地するなり受け身を取るなりするだろうし、現に下を見たタイミングで持ち出し犯を捕まえていたので、この推測は間違ってないはずだ。まあ、そんな場面に居合わせたこの客には申し訳ないが。


「ですが、ご不安にさせたことには変わりないので、本日購入予定のものがあれば、後程割り引かせていただきますね」


 その店員は、笑顔でそう告げた。


   ☆★☆   


「で、何で飛び降りた?」

「その方が早かったんだよ。扉も近かったし、いくら警報があるとはいえ、そこから先は辛くなるし」


 やはり、捕まえるために飛び降りていたらしい。


 ちなみに『警報』とはそのままの意味である。

 万引き・盗難されたものはルヴィエール図書店を出てしまえば追跡できなくなってしまう。

 それを防ぐために、支払いをしていない本を持ったまま本屋から出るタイミング、持ち出し厳禁の本を持ったまま図書館から出るタイミングでそれぞれの本に刻まれた魔法陣が発動し、店員や司書に知らせるのだ。

 そして、その魔法陣を外せるのは、ルヴィエール図書店の店員および司書のみである。


「それに、ちゃんと対応してくれたでしょ?」

「……」


 実際に対応したのだから、間違ってはない。

 だが、素直に認めるのも、何だか癪だった。


「あれ? もう行くの?」

「誰かさんのせいで、仕事が止まったままだからな」


 振り返らずにそう言って、その場を後にする。

 彼女なら大丈夫だと分かってはいるが、きっと大怪我でもされたら、彼女よりも取り乱すことだろう。


 ――戦闘能力があるというのも、考えものだな。


 自分のことを棚に上げて、そう思う。

 ここ『ルヴィエール図書店』で店員や司書をしている人々の中には、純粋な者もいれば、自分たちのような事情持ちもいる。

 時々、そのせいでトラブルも起きるが、店長兼館長はどのように対処しているのか、秘密裏に解決しているらしい。


『ちょっとの間、来ないだろうから安心して良いよ』


 自分の時も、何の説明もなく、そう告げられた。

 事実、その時以降、来なくなったから良かったが、ただこちらがするのならともかく、すれ違い様にびくりと体を揺らされると、一体何をしたのやら。





「ふふ、君たちが気にする必要はないよ。ここに来た以上、ボクは君たちを護るだけだ」


 そう、店長兼館長――ライブラは、自室兼執務室でルヴィエール内の様子を見ながら微笑んだ。

 全てを全て、対処するわけではないが、彼らの手に負えないときは自分の役目である。


「さあて、またここから忙しくなりそうだ」


 そう告げると、ライブラは目の前にある天秤を、ゆらゆらと揺らし始めるのだった。



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