修学旅行~最終日~
翌日、集合場所に行く前に胡桃から電話がかかってきた。
「胡桃か?」
《ひーくん?昨日も電話してくれた?》
「ああ。でも出ないから何かあったのかと思って心配してたんだよ」
《ご、ごめんね……。き、昨日は早く寝ちゃって。私は大丈夫だから。楽しんできてね》
「ああ。ありがとな。じゃあ――」
《あっ!!ちょ、ちょっと待って!!》
「えっ?」
電話を切ろうとしていた手が止まる。
「どうした?」
《え、えっとね。今日は何時くらいに帰ってくるの?》
「そうだな……。五時くらいだと思うよ。胡桃が帰ってからだと思う」
《そ、そっか。分かった。……帰れるかな》
「えっ?なんだって?」
最後が小さい声で聞き取れなかった。
《う、ううん。じゃあね。いーちゃんにも楽しんでねって言っといてね》
「……分かった。じゃあな」
少し首を傾げながら、電話を切る。
しかし、集合時間が差し迫っているため、まとめた荷物を持ち、集合場所に向かう。
そこで今日のスケジュールを聞き、バスに乗り込んでから、維織にも胡桃に電話が繋がったことを報告する。
「そう。良かったわ」
昨日からずっと心配していたので安心した顔を見せる。
「でも、何かおかしかったんだよな」
さっき胡桃と話していて覚えた違和感を話す。
「何が?」
「なんというか……やけに俺達の帰る時間を気にしてたような気がしてな」
「ただ単に早く帰ってきてほしいとかじゃないの?」
「……そうなのかな?」
『少し違ったような気もするけど。……まあ、帰ってから聞いてみればいいか』
そんな風に気楽な考えを持って今日の予定を楽しむことにする。
といっても今日は水族館に行き、あとは帰るだけだ。
しばらくしてバスは、水族館に向けて発進した。
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「綺麗ね」
目の前をゆっくりと泳ぐ魚たちは、上からの光を浴びてキラキラと光っている。
「そうだな。……でも、こういうところに来るとガラスが割れたらどうなるんだろうって考えちゃうんだよな~」
「割れることはないわよ。……まあ、割れてしまったらどうすることもできないだけね」
「そうだよな……」
そんなつまらないことを話しながら、水族館を周る。
「維織。これするか?」
ナマコを触るコーナーを指差す。
「わ、私はいいわ……」
「せっかくだしやろうぜ。ほらムニムニしてる」
ナマコを指で触りながら言う。
そう誘うと、維織は恐る恐る手を近づける。
そして、手がナマコに触れる瞬間……
「わっ!!」
維織の背中を押す。
「きゃ!!」
思わず大きな声が出てしまった維織は顔を赤らめながら口を押え俺を睨む。
「あ、あなたは……!!」
ポカポカと俺の胸を叩く維織を見ながら俺はクスクス笑ってしまう。
「ごめん、ごめんって。そんな驚くとは思わなかったんだよ」
まだ笑いが止まらない。
「……次したら怒るわよ」
「わ、分かったよ」
少し顔の赤い維織に怒られたところで次のところに進む。
そこはお土産売り場で可愛いぬいぐるみなどを買う。
買い物を終了するともうここで最後らしく、外に出て全クラスで写真を撮り、俺達の修学旅行の全日程は終了した。
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「じゃあな。胡桃によろしく」
「会っていかないの?」
「会いたいんだけど……。だいぶ疲労がな……」
「分かったわ。じゃあ胡桃にも伝えておく。ゆっくり休みなさいよ」
「ありがと。じゃあな」
二日ぶりに帰った家は寒い。
やっぱり沖縄に比べて京都は寒いなあと思いながら使った着替えを洗濯機に投げ込む。
かなり疲労が溜まっていたみたいで、もうこのまま寝てしまおうと思いベッドで眼を閉じた時、携帯が鳴る。
誰だ?と思いディスプレイを見るとそこに映るのは維織の文字。
まだ別れてから五分も経っていないのにどうしたのだろう。
「どうした?なにか――」
《博人!!》
俺の声に割り込んで維織の必死の声が聞こえる。
《胡桃がいないのよ!!》
「えっ?まだ学校とかじゃないのか?」
《だってもうこんな時間なのよ?まだ学校に居るなんてありえないわ》
確かにもう五時だ。
いつも俺達が学校から帰る時間より一時間も遅い。
遅くなる時はちゃんと連絡をしてくれるがもちろんそれもない。
そのことを認識した瞬間、ぞっと寒気がする。
家にいないとなると思いつく場所は一つしかない。
「病院に行こう!!そこしか思いつかない」
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