相談

「夏休み明けか」

「はい。まだ当面の目標っていうだけなんですが」


六月も半分を過ぎた頃、俺は進路室に来ていた。

主な要件は胡桃の高校への入学についてだ。


「胡桃とは色々話し合っているんですけどやっぱり高校には通いたいって言っているんです」

「ふむ。確かに高校に通うことは大切だと思うが身体の方は大丈夫なのか?」

「はい。身体に後遺症が残っているということはなかったです」

「しかしリハビリなどもあるだろう?」

「・・・そうです。筋力が衰えていて今のままじゃ鉛筆も持てないので。そのリハビリがどのくらいで終わるかがまだ分からないので夏休み明けを目標にと・・・」

「なるほどな。学期途中に入学するということは編入という形になるわけだからもちろん編入試験も受けてもらうわけだがその辺りは大丈夫なのか?中学校の範囲はもちろん高校の一学期までの範囲も入るぞ?」

「その辺りは俺達で何とかします。維織という家庭教師もいるので、多分大丈夫だと思いますよ」

「なら後は目途がつき次第、学校長との面会も、、、まあその辺りは追々でいいだろう。詳しいことはまた話すよ」

「はい、ありがとうございます」


話が一区切りしたところで先生は足を組み替える。


「しかし、そんな話で安心したよ。もっと深刻な話をされるのかと思った」

「どうしてですか?」

「君がいつもより暗い顔で職員室に来たからね。私も少し緊張していたよ。もしかして他にも何か話すことがあるのか?」


先生は真面目な顔で聞いてくる。


「・・・ばれてましたか。よく分かりましたね」

「これでも伊達に進路指導部長をしていないからな」

「流石です。・・・実はちょっと面倒なことになってまして」

「どうした?」

「実は・・・」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「私も京峰高校に転入するわ」


その突拍子もない発言は三人で胡桃の編入について話している時にいきなり発せられた。


「・・・は?」

「本当に!?また三人で同じ学校に通えるの!?やった!!」


会話は普通に進んで行く。

俺の止まっていた思考が動き出す。


「な、、、何言ってんだ?」


言っている意味が全く分からない。


「何ってそのままの意味よ。国語は得意なんだから分かるでしょ?」

「そういうことじゃねえよ!!てか、そんなの無理に決まってんだろ?」

「出来るわよ。転入届を出せばいいだけだもの」

「い、いやそうかもしれないけど。せっかく進学校に入ったのに・・・」

「勉強なんてどこでもできるわ。それにあの学校に入ったのは、、、博人から離れるためだったから。何もなければ博人と同じ高校に入学していたもの」

「と、友達とかどうするんだよ!!」

「友達なんていないわ。二年間、勉強と読書しかしていなかったから」

「・・・そんなこと言われても困るけど」


『堂々と言うことじゃないだろ・・・』


「昔言ったでしょ?私には二人がいればそれでいいって。だからまたあなた達と一緒に居たいのよ。駄目?」

「い、いや、駄目とかじゃないけど・・・」


こういう維織の突然の言葉にはいつも反応に困る。


「ひーくん、お願い。私もいーちゃんが近くに居て欲しい。」

「そ、それは・・・」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「と、言うことなんです」


先生は苦笑する。


「確かに大変だな。白瀬は今どこの高校に通っているんだ?」

「西ノ宮高校です」

「立派な進学校じゃないか。確かにここに来るのは少し勿体ない気がするな。しかしそのレベルになるとどんな理由があっても簡単に転入なんてできないだろう」

「そう言ったんですけど、、、“正直に言ったら分かってもらえるわ。”って。幼馴染と一緒に居たいから転校しますなんて言って許可されるわけないのに・・・。そういうところは無駄に自信満々と言うか、無謀なことばかり言ってくるんですよね」


俺が困り果てた顔で言うと先生は優しく笑う。


「確かに無茶苦茶なことだが、そんなことを言ってくれる友達が近くに居てくれてるなんて幸せじゃないか。・・・白瀬は本当にお前たちのことが好きなんだな」

「・・・そうですね。俺もそうだと思います」

「だろ?栗山もそうなのか?」

「胡桃も多分そうですね」

「へえ」


そう言って先生は組んでいる自分の足に肘をつく


「二人は可愛いのか?」

「えっ?」

「私は見たことがないからな。前から気になっていたんだよ」

「まあ、、、可愛い方だとは思いますけど」

「そうなのか。じゃあ駒井はどっちの方が好きなんだ?」

「どっちの方がって・・・。先生なんか勘違いしてませんか?」

「どういうことだ?」

「好きっていうのは別に恋愛感情とかじゃないですよ。俺達にとってお互いは家族みたいなものですから。家族として好きってことですよ」

「ふむ、なる程な。あの二人に直接聞いたことはあるのか?」

「直接はないですけど。二人ともそう思ってると思いますよ。・・・もうこの話は止めませんか?」

「そうだな。関係のない話をしてすまなかったな」

「まあ、そういうことで。また相談に来ます」

「ああ、いつでも来てくれ」

                 ・

                 ・

                 ・

それじゃあと言って駒井は進路指導室から出ていく。

それを見送ってから次の授業の準備に戻る。

作業をしながらふとさっきの駒井との会話を思い出す。


「・・・そう思っているのはお前だけだと思うがなあ。まあ気付いているのか気付いていないのかは知らないがそれも若さってことなのか。・・・羨ましいな」


少し笑いながら独り言がボソッと出てしまい前の机の先生がチラッとこちらを見てくるので慌てて顔を引き締め準備に集中する。

栗山の眼が覚めてから駒井は以前よりも格段に明るくなった。

その前はいつも思いつめたような顔をしていて、入学する時から祐子から少しでいいから気にかけてあげて欲しいと言われていたあの頃に比べると別人になったようだ。

特にあの二人のことはとても楽しそうに話してくれる。


『一度二人にも会ってみなくちゃいけないな。時間ができた時に行ってみるか』


そう決めてから、教科書と出席簿を持ち次の授業の教室に向かった。

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