小学校編 追及
「二人ともどうしたの?こんな朝早くに」
「ちょっと話があってな」
高田と話した三日後の朝に俺達は花園を呼び出した。
「話?」
「ああ。・・・栗山のことだ」
「胡桃ちゃん?そう言えば最近二人とじゃなくて私とずっといるね。喧嘩でもしたの?」
「!!それはあなたが・・・」
食って掛かる維織を制止する。
「落ち着け維織。ここは俺がやるから」
「くっ!!・・・分かったわ」
改めて花園を見る。
「俺達は別に喧嘩している訳じゃないよ。というより理由は花園が一番知ってるんじゃないか?」
「えっ?知らないよ。心配して胡桃ちゃんに聞いても教えてくれなかったから」
『遠回しに言っても無駄か・・・。なら・・・。』
「なら単刀直入に言うよ。・・・栗山をいじめているのはお前か?」
花園の様子を観察する。
しかし、動揺した様子はない。
「私が?違うよ~、胡桃ちゃんにそんなことする理由が-」
「理由ならあるわ」
耐えきれなくなった維織が花園の言葉に割り込む。
「・・・何?」
「あなたは一か月前に五組の高田君に告白しているわね」
「うん、したよ。好きな人がいるからって振られちゃったけどね。でも何で知って-」
「その後、あなたは高田君の好きな人が栗山さんだということを知った」
その時花園の体がピクッと動くのを見逃さなかった。
「その逆恨みで栗山さんのことを-」
「止めてよ!!私は高田君の好きな人が胡桃ちゃんだったなんて知らなかったし、そんな理由でいじめたりなんてしたりしないよ!!そんなことが言いたいことなら私はもう行くから!!」
「待ちなさい!!話はまだ-」
「いや、もういい」
熱くなってきた維織を止める。
「博人!?」
「これ以上言っても無駄だよ。悪かったな花園、朝早くから呼び出したりなんかして」
「ホントだよ。しかもそれで急に私のことを犯人扱いなんて」
「本当に悪かった」
「・・・もういいよ。じゃあ私はもう行くよ」
「分かった。そうだ、花園に一つだけ」
「何?まだ何かあるの?」
花園は少し怠そうにこっちを見てくる。
「お前が何しても栗山には勝てないよ。何もかもな」
花園は目を見開く。
「!!! わ、訳分かんない」
怒って走り去っていく花園を見てため息をつく。
「・・・いらないこと言っちゃったかな」
「いいわよ、事実なのだし。・・・結局、花園さんが犯人なの?」
「多分。一瞬動揺した時があったから」
「でも、もし花園さんが犯人なら今のことで栗山さんに何かする可能性があるんじゃないの?」
「・・・だな。維織を止めたのは間違いだったかな」
でも後悔先に立たずだ。
「今日はいつもよりも花園のことを注意して見張っておこう」
「そうしましょうか。・・・それと博人は間違っていないわ」
「・・・だと良いんだけどな」
その後授業が始まり何事もなく三限目まで終わった。
四時間目の音楽は忘れ物をした生徒に対してとても厳しいことで有名な先生の担当でみんな忘れ物には細心の注意を払っていた。
しかし・・・
「胡桃ちゃん教科書忘れたの?今日の先生は忘れ物に厳しい人だよ」
栗山はまた教科書を隠されたらしい。
最近は起こっていなかったため今朝のことが影響しているのかもしれない。
俺は花園の心配そうな顔をじっと見つめる。
「ほ、他のクラスの人に借りてくるから花園さんは先に行ってて」
「うん、分かった。急いでね」
花園は引き止めない。
栗山に他のクラスの友達がいないことを知っているからだ。
「本当に最低ね。自分で隠したくせに。人間の屑だわ」
「まあ、俺のせいでもあるからな」
「私もよ。あの時ちゃんと言えていればこんなことには・・・」
「・・・何とかするよ」
「えっ?」
俺達以外の生徒が教室から出た瞬間に栗山の方に歩いて行く。
話すのは一週間ぶりだ。
「栗山、俺の教科書を持っていけ。名前は書いてあるけど内側だから見えないようにしろ。あとは頑張って適当に誤魔化してくれ」
「えっ?で、でもそれじゃあ駒井君が!!」
「気にするな。維織行くぞ」
「え、ええ」
栗山を教室に残しさっさと音楽室に向かう。
万が一花園に見られていたりしたら面倒だ。
「だ、大丈夫なの?」
「怒られるくらいなんでもないよ。俺のせいでもあるし、なにより栗山がこれ以上花園に踊らされているところなんて見たくないからな」
音楽室に到着してすぐに教科書を忘れたことを先生に報告する。
「先生、教科書を忘れてしまいました」
「あれほど忘れ物はするなって言ってただろ!!」
噂通りの剣幕で説教をしてくる。
その途中で授業開始のチャイムが鳴る。
「駒井、授業が終わってからもう一度来い!!」
「・・・分かりました」
『面倒だな・・・。』
心の中で舌打ちをする。
「じゃあ授業を始めるぞ。駒井は隣の席の奴に見せてもらえ」
「分かりました」
教室と同じ席順なので隣は維織だ。
「悪いな。教科書見せてくれ」
「ええ、どうぞ」
授業が始まってしばらく経った時、維織が教科書に何かを書く。
“博人ばかりに迷惑をかけてごめんなさい”
ちらっと維織を見ると申し訳なさそうな顔が見える。
“俺がしたいからしてるだけだよ”
そう書いて維織に笑いかけ安心させる。
・
・
・
「じゃあ駒井来い!!」
授業が終わり先生に呼び出される。
「はい」
「外で待ってるわ」
「大丈夫、先に帰っといてくれ」
「・・・分かったわ」
説教は十分くらい続きやっと解放された。
「はあ、めちゃくちゃ疲れた。教科書忘れたくらいで説教が長いんだよあの先生は」
ぶつくさ文句を言いながら教室に帰る。
音楽室がある階は美術室、コンピュータ室しかなく昼休みになると人が全くいない。
「・・・トイレ行くか」
音楽室は四階にあり俺達の教室がある二階に行くまでに我慢できそうもない。
「ふう、すっきりした」
無事にトイレを済ませ教室に帰る。
『そう言えば、隣の女子トイレは清掃中の札がかかってたな。なんでこんな時間に掃除なんてしてるんだろ。・・・まあ、どうでもいいか』
教室に帰ると維織が教室の前でうろうろしていた。
俺に気付いた維織がこっちに駆け寄ってくる。
「博人!!」
「どうした?」
「栗山さんが帰って来ないの・・・」
「えっ!?」
中の人に気付かれないように教室を見渡す。
「・・・本当だ、いない」
「私はあの後すぐに教室に帰ったのだけど、まだ二人とも帰ってきてなかったの。でもしばらくしたら花園さんだけが帰ってきて、、、栗山さんがいなくて・・・」
今日花園はずっと栗山と一緒に行動していた。
いつも一緒に居る周りの女子ともバラバラだった。
「このためにいつもいる女子達とは別行動をしていたのか・・・。周りに気付かれないように」
「私がちゃんと見ていたら・・・」
維織の顔は後悔と自責の念にかられている。
「反省は後だ。早く栗山を探すぞ」
「ええ、早く見つけないと」
維織と手分けをして栗山を探す。
『どこにいるんだ、栗山!!』
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『寒い・・・』
身体が動かない。
借りた教科書は濡れてぐちゃぐちゃになって床に捨てられている。
『私のせいで駒井君の教科書が・・・。せっかく貸してくれたのに・・・』
身体が痛むがそれが一部分なのか全身なのかが分からない。
頭がぼおっとして身体を動かす力が出てこない。
『・・・あの時と同じ。私は死ぬのかな・・・』
小学校に上がる前に家で倒れ生死をさまよった時と同じ感覚だ。
「うっ、うっ・・・」
涙が零れ落ちる。
これはきっと罰なんだ。
私を助けてくれようとした二人を拒絶した。
大好きな二人を傷付けた。
「助けて・・・」
口から震えてかすれた声が零れる。
「助けて・・・白瀬さん・・・駒井君・・・。・・・助けて」
何分経ったか分からない。
どこからか私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
大好きな人の声。
その声が近付き・・・
「栗山!!!」
扉を開け駆け寄って来てくれたのは・・・駒井君だった。
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