悩み

「本当だったら看護師として止めるべきだったのに。それなのに……私は看護師失格だよ!!」

「そんなことを言うためにあんな所で座り込んでたのかお前は」


 私が家に帰るとうなだれた祐子が扉の前に座っていた。

 面倒くさいのでさっさと部屋に入れて飲みながら話を聞くとどうやらそういうことらしい。

 ちなみに私と祐子は同じアパートのお隣さんだ。


「そんなことって……。薫ちゃんは冷たいね。ちょっとくらい慰めてくれてもいいのに」

「慰めるもなにもそれは栗山が望んで決めたことなんだろ?なら別にいいじゃないか。何が起こっても自己責任だよ。言葉は悪いかもしれないけどな」

「……やっぱり冷たい。そんな簡単な問題じゃないんだよ」


 祐子はふくれっ面になる。

 今はマシになったが酒に酔うと学生時代のぶりっ子が戻ってくる。


「それに栗山は一人じゃないだろ。駒井がいる」

「そうだけど……。今日あの二人が喧嘩してたんだよ。二人が喧嘩してるところなんて初めて見たからびっくりしちゃった」

「そんなことは関係ない。喧嘩していようと大切な人のためならなんでもするものなんだよ。男ってのはそういうもんだ」

「へー、カッコいいね~。相変わらず薫ちゃんは昔から言うことすることが男らしいなあ」

「余計なお世話だ。……はあ、私にもそんな男がいればいいのにな」

「あっ、そういえば婚活パーティーはどうだったの?この間行ったって言ってたやつ」

「……婚活パーティー?ハハッ……」


『あっ、地雷踏んじゃったっぽい。でもまたこのパターンか。薫ちゃんは本当に男運がないなあ』


「また駄目だったんだ」

「あいつら、はじめはあっちから声かけてきたくせに最後の方になったら端っこの方で……」


「今日いい人いた?」

「いや、駄目だったな」

「あの人は?宮本さん。めっちゃ美人だったじゃん」

「ああ、宮本さんかあ。確かに美人だったけどなんか男らしすぎない?酒も俺達より飲んでたし」

「確かにな。しっかりしてるというかしすぎてるというか。なんか一人でも生きていけそうって感じ?(笑)」

「そうそう、分かる分かる。あはははは……」


「一人で生きていくんだったら婚活なんてしてないわ!!」


 聞いちゃったんだね……。

 しかもめちゃくちゃ笑われてるし。


「男の方から話しかけてきたから今回は行けると思ったのに。人に期待させやがって!!」

「はあ……。だからパーティーでお酒は飲みすぎないようにした方がいいって言ったのに」

「そ、そんなに飲んでない」

「じゃあ何杯?」


 今まで強気だった薫ちゃんは急に慌てだす。


「えっと……三杯くらい」

「……本当は?」


 薫ちゃんの目は泳ぎまくっていた。


「……覚えてない」

「はあ、いい?婚活パーティーは出会いを求める場であってお酒を飲みに行く場所じゃないんだよ?」

「そ、そんなこと分かってる。ちょっと酔っていた方が話しやすいと思ったんだ」

「それがちょっとじゃないじゃん。はあ……もう諦めたら?」


 薫ちゃんは必死に首を振る。


「嫌だ、結婚したい……。もう家族と親戚からお見合いとか結婚話を聞かされるのは嫌なんだ!!」

「みんな心配してくれてるんだよ~。いい人たちじゃん」


 薫ちゃんは恨めしそうな顔でこっちを見てくる。


「お前だって言われてただろ」

「私は結婚出来ても出来なくてもどっちでもいいもん。今は仕事が楽しいし」

「私だって楽しいが……このままだと仕事が恋人になりそうで怖いんだよ」

「いいじゃんそれでも。それに結婚するんだったら婚活パーティーよりもちゃんとした出会いの方がいいしね~」

「はっ、甘いな祐子。三十に近くなったのと私たちの職業柄で男との出会いも少ないから誘われることも少なくなってくるんだよ」

「そうかなあ?私結構男の人から食事に誘われるけど」


 そう言った瞬間薫ちゃんの顔が固まる。


「……えっ?だ、だってお前いつも普通に帰ってきて……えっ?」

「まあ、断ってばっかだからね~」

「な、なんで?」

「だってこの歳になったらお付き合いする人なんて結婚前提でしょ?だったらお誘いとかも慎重に考えなくちゃ」

「……」

「薫ちゃん?」


 急に黙りこくった薫ちゃんの顔を覗き込む。


「う……」

「う?」

「裏切り者めー!!」


 薫ちゃんはそう叫ぶと自分で買ってきたお酒を勢いよく飲む。


「び、びっくりした。急に大きい声出さないでよ~」

「うるさい!!そんなの勝ち組の発言じゃないか!!私なんて誘われることもないのに!!」

「まあまあ、ゆっくりいい人見つけていこうよ。人生まだまだこれからだよ」

「くそっ、余裕な顔しやがって!!もういい、今日は飲むぞ!!祐子も付き合え!!」

「明日まだ平日だよ?」

「そんなの知らん!!」

「ハイハイ、お手柔らかにね」


『ていうか私が相談してたのに最終的に薫ちゃんの相談になっちゃったな。まあ気持ちは少し楽になったかな。薫ちゃんは無意識だろうけどね』


 結局この飲み会という名の愚痴会は深夜の一時まで続き、薫ちゃんは酷い二日酔いで次の日の学校を休むことになりましたとさ、ちゃんちゃん

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る