優先すべき方
「そうだよ!!二人でいーちゃんを迎えに行こう!!」
俺は小さくため息をつく。
『こうなると思ったから言いたくなかったんだ』
「今からでもすぐ……」
ベッドから出ようとしながら言う胡桃の言葉を遮る。
「行けるわけないだろ。お前はまだ起きて一週間しかたってないんだぞ」
「で、でも検査したら大丈夫だって言われたし」
「でもじゃない。今無理に体動かして何かあったらどうすんだよ。そもそも病院から外出許可が出るわけないだろ」
「なら隠れて行けば……」
「そういう問題じゃないだろ。今無理に動くのは体に悪影響だって言ってんだ。病気が悪化したりしたらどうすんだよ」
真っ向から反対されて胡桃は黙り込む。
「今はまだ安静にしてろって」
「でも……」
『焦ってるな。いつもならこんな無茶なこと言わないのに』
「とりあえず落ち着け。どうしたんだよ、なんか変だぞ」
「変なのはひーくんだよ!!昔のひーくんだったらこんな時すぐ行こうって言ってくれるじゃん!!」
胡桃が声を荒げて怒り出す。
怒っている胡桃を見るのは初めてで少したじろぐ。
「……それは昔の俺が後先のことを考えないガキだったからだ。でもこの二年で少しは大人になった。だから今はどっちを優先すべきかって話をしてるんだよ」
「じゃあいーちゃんのことはどうでもいいの!?」
「そういうことじゃない!!俺は胡桃が元の体調に戻ることを優先すべきだって言ってるだけだよ。維織に会うのはそれからでも行けるだろ」
「……違うよ、それは間違ってる」
「間違ってる」と言われて言葉に詰まるがなんとか言葉を続ける。
「……間違ってないよ」
「……なんで、なんでひーくんは私のことばっかりなの?いーちゃんのことも考えてあげてよ。ひーくん、さっき私が事故に遭ったのは自分のせいだっていーちゃんが悩んでるって言ってたよね。なら今すぐ会っていーちゃんに違うって言ってあげなきゃ。……いーちゃんが可哀そうだよ」
胡桃の必死な声が心に刺さる。
「でもそれは……」
「なんで!?ひーくんはさっきからでもでもって!!もういい、なら私一人で行く!!」
「……はあ!?な、なに言ってんだ。そんなこと出来るわけないだろ」
「だってひーくんに言っても意味ないじゃん!!なら私一人で勝手にする!!」
自分の中で何かが切れる。
『……好き勝手言いやがって』
「ふざけんな!!さっきからずっとしんどそうにしてるくせに!!お前は――」
ガラッ
勢いよく扉が開き祐子さんが病室に入ってくる。
「病室でなに騒いでるの!!博人君も胡桃ちゃんも静かにしなさい!!」
「祐子さん……。すいません……俺はもう帰ります」
「ちょっと待ちなさい。一体何を――」
俺は祐子さんの言葉を無視して胡桃の方を見る。
「……勝手にしろよ」
そう言って出て行こうとする俺に胡桃が言葉をぶつける。
「……ひーくんは大人になったんじゃない、昔に比べて臆病になっただけだよ。そんなのが大人なんだったら……ガキのままの方がいい」
「!!……」
ガラガラッ
バンッ
『ふざけやがって。そんなこと自分で分かってんだよ。俺だって早く……。……もう胡桃なんて知るか』
俺は速足で病院の廊下を歩く。
一刻も早くここから離れたかった。
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