第3部 第21話「屋敷の真実」

 本戦が幕を開けた。両者は目を見開き、互いを見据えた瞬間、緊張感が漂い始めた。この瞬間が、戦いの始まりだ。

 勇一は、冷たく静かなブラクタスの目を見つめ、その目線からは鬼のような殺意が滲み出ていることに気づいた。

「鬼のような」と表現はしたものの、相手はただの人間であるが故に、心理戦となることは間違いないだろう。

 ここで勇一は、この屋敷の疑問点を踏まえて、再び考えてみることにした。

 屋敷に入り、真っ先に対峙することとなったリーブことリーブ・アルフィセン。

 彼に抵抗する間もなく勇一は強制的に屋敷内の何処かへ転移された。

 そしてその転移した先にあった扉は、元の世界の知識をパズルのように組み合わせたもので。

 このリーブ、という名前と関係している彼の技、既に違和感なのだ。

 たとえば、リーブを英語にしたらLeave離れるとなることとしよう。

 文字通り彼は勇一達をあの部屋から“離れ”させた。

 少ない証拠ではあるが、勇一はそこが疑わしく見えた。

 先程触れた元の世界の知識をパズルにしたような扉もそうだ。

 もしかしたら、この家は元の世界と何か関係があるのではないかと。

 だとすると、ブラクタスだとどうなる?

 勇一の記憶上、ブラクタスなどという単語はない。

 やはり関係などないのか……?

 そう思った矢先、彼の目の前に黒い睡蓮のようなものが姿を現す。。

 なるほど、Black Lotus黒い蓮、それを組み合わせた造語でBlactusブラクタスか。

 理解したと同時に、黒蓮が弾ける。

 まもなくそこから、同じく黒い睡蓮スイレンのようなものが飛び出し、勇一達にぶつかった。

 勇一は理解する。

 西洋の伝説では、黒いスイレンには、毒や眠りをもたらす効果があるとされているのだ。

 だからもし、この場で眠りにつかせるとするならば、この瞬間に寝ているはず。

 だとすると、残る可能性は……、




「――――!!」




 強烈な不快感が、喉奥を駆け巡った。

 響き渡る嗚咽に、ブラクタスが高らかに笑い声を上げる。

「どうだ!毒の味は。と言っても、俺特注の毒だけどな!」

 こみ上げる不快感をなるべく抑えて勇一は笑い続けるブラクタスに非難の声を上げる。

「おまえ……卑怯だぞ!」

 笑いも収まりつつある喉を落ち着かせながら、ブラクタスはそんな勇一の言葉に返答する。

「卑怯って言われても、俺の技だからなあ」

 聞いて呆れる。

 仕方あるまい。

 少し戦いにくくはなるが、彼の攻撃を避けながら戦ったほうが効率が良いだろう。

 そう思った勇一は希里花に話すと、一気に走り始めた。

「逃げても無駄だ、無駄!」

 笑いながら蓮を勇一に当てようとするブラクタス。








 ――だがその余裕そうな男の顔は、結衣奈の後方からの杖の攻撃(物理)によって呆気なく散るのだった。

「面倒い考察させといてクソ弱えのかよ」

 勇一は吐き捨てるようにそんな台詞を口に出し、再びブラクタスの方へ向き直り剣を向ける。

「スミマセンガキダトオモッテチョウシノッテマシタユルシテクダサイオネガイシマス」

 呆れた顔を整えて、勇一は剣を振りかざす――

「ごめんで済んだら警察は要りません!」





 ――その時だった。

「全く、ガキ相手にみっともない。」

 一人の女が後ろから現れ、ブラクタスに話しかける。

「あんた悪いね。お茶を飲んでたら遅れたわ。」

 勇一は、女の方へに向き直り、警戒しながら瞳を細めた。

「早咲の……眷属?」

 入ってきた“女”は、早咲の眷属だった。

 だが、今までの彼女とは何かが違う気がする。

「眷属ちゃん!危ないから離れなさい!」

 希里花が、“眷属”にそう呼びかける。

 しかし“眷属”はその表情を冷たく変えて言い放つ。

「“危ない”……?それは、あなた達でしょう?」

 本当に、理解が追いつかない。

 だが次の彼女の一言で、パーティ全員が理解することとなる。














「私はランディ・アルフィセン。この家の当主であり、ブラクタスの妻よ。」

 これで、本当に最後なのだろうか。

 もはや勇一はこの屋敷の真実よりもそっちの方を気にかけていた。

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