第3部 第14話「狂気との対決・①」

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彼女は生前、不安と絶望に苛まれていた。

こみ上げる憎しみ、こみ上げる葛藤は、彼女の心をどんどん蝕み、陵辱し、彼女を狂人の道へと走らせた。


これは……『吸血鬼』早咲の生前の記録。

その顛末である。


彼女の生まれは――紛れもなく日本。

1996年、2月に彼女は生まれた。

生まれて間もなく――彼女は親の道具にされた。

そのせいで、彼女は今も写真を嫌っている。

親――文枝ふみえを、いい親に見せるために使われた、自分の写真を。

――やがて彼女は赤子から少女になり、趣味が出来た。

……それはアニメである。

この世に無数に存在したアニメは、貧困な生活を親に強いられていた彼女に、勇気と幸せを与えてくれた。

だが、そのことを親はよく思っていなかった。

親はアニメから彼女を遠ざけ、家事と勉強を強いた――。



***********




「――黒煙纏いし炎風ダークフレイム・ヴィントストー厶!!」

「ウィズ・ヴァルサー・ダンクルヘイツボール!!」

魔獣(?)『エクソシスト』の咆哮に始まった一戦。

 希里花・結衣奈連携のコンビ攻撃が打ち込まれるも、『エクソシスト』は断じて怯まない。

「殺人鬼の家に訪問ってクエストだけでも狂ってんのに、バ○オみたいなモンスターと遭遇とかマジ中のマジかよ……。」

 勇一は顔だけでなく身をも引きらせながら言った。

 「何突っ立ってんの!!加賀谷くんも加勢して!」

 『エクソシスト』に圧倒され棒立ちする勇一に、希里花が叫ぶ。

「は、はいっ」

 勇一は希里花の言葉に応え、剣を振りかざす。

 刹那、その刃先から闇と雷、風と炎が混合した魔法が繰り出され、『エクソシスト』の人間並の体躯に激突。

 強烈な力にエクソシストは怯むも、その“怯み”はまるで無かったかのように中断された。

 ……刹那、強烈な破壊力を伴う雄叫びが繰り出され、その強烈な圧力に周辺の草木は蹂躙され、勇一達は吹き飛ばされた。

「マジ……かよ……。」

勇一が驚愕し、震える。

『エクソシスト』の光無き黒瞳は勇一達を見つめたまま――否、それは『エクソシスト』が生者では無い事を意味する。

「既に死んだ存在を殺すのは無理――いや……」

勇一がそんな言葉を吐き捨てるように言う。

生物というより、[死物]。

まるでゾンビの如く蠢き、攻撃しても怯まないそれ、その生態は、そう呼ぶに均しい。

……つまりは。

ゾンビの様な生態である、とするならば、脳天や脊髄を損傷させれば――。

そう考えた勇一は振り向き、希里花に言った。

「賭けてみるんで、死んだらお願いしますね――希里花さん!」

「ちょ――。」

そんな希里花の言葉を気に掛けず、勇一は『エクソシスト』へ向け、走り出した。

「――加賀谷くん!」

勇一はパーティーの中で最も弱い。

だからこそ。

だからこそだ。

ここで一気にレベルを上げてやろうと。

飛び掛かった――。

「おらァァァァァァァ――――!」

勇一の叫びと共に、『エクソシスト』の頭部に鉄槌が下された。

その衝撃は『エクソシスト』の神経を切断し――

……その動きを完全に停止させた。

――パーティーの唯一の弱者勇一は、恐らく高レベルであろうモンスター、『エクソシスト』を倒したのだった。

だが勇一は、 そのことをまるで低レベルモンスターであったかのように無視し、その亡骸の一部を担ぎながら言った。

「さあ、ささっと殺人鬼討伐行きましょう!」

そんな勇一に、希里花たちはただ呆然と見つめるしかないのだった。

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