得意なことばかりやっていては成長しない

 新しい依頼先のお仕事をこなしていると、それ以前にお取引をしていた人たちと段々疎遠になっていきます。1文字あたりの単価が違うので仕方がないといえば仕方がないのですが、ちょっと残念な気がします。


 そのことをあの人に話すと、こんな風に言われました。

「そのようなことをいちいち気に病んでいても仕方がないよ。全ては舞い散る桜の花びらのごとく。あっという間に舞い散って、風に吹き飛ばされてしまうのだから。縁があれば、また一緒に仕事をすることもあるだろう」

「そういうものですか?」

「そういうものだね。君の能力に合うだけの報酬を用意できなかった相手の方が悪い。そう割り切るんだね」

「ちょっと悲しい気もしますけど、そういう世界なんですよね。ここは」

「そういうことさ。ただし、報酬額だけを気にしていてはいけない。目の前の報酬なんて微々たるもの。それよりも大事なことがある」


 私は疑問に思い、問い返します。

「それよりも大事なこと?なんですかそれは?」

「能力アップだよ。今の仕事をしていて、いかに君の能力が上がるか?それを最優先にした方がいい。能力さえ上がれば、報酬なんていくらでも上がっていく」

「なるほど。でも、どのお仕事が私の能力を上げてくれるのか判断するのは難しいですね」

「なるべく違う仕事をするように。それが能力を上げるコツさ。似たような仕事ならば、より報酬額の大きな方を選べばいい。けれども、これまでと全く異質な仕事ならば少々額が低くとも積極的にそちらを選んだ方がいい。きっと、それが君の能力を上げてくれるはず」

「でも、やったことのないお仕事って大変なんですよね」

「そう、大変だからいいんだよ。未知の分野に積極的にチャレンジしていくこと。それこそが君の力を一番引き出してくれることのつながる」


 私はしばらく考えてから答えます。

「そうですよね。同じことの繰り返しじゃ、つまらないですよね。全然違うことにチャレンジするからこそ、新しい世界が開ける。それは当然のこと」

「その通り。最初はつらく感じるかもしれないけれど、最後にはそういう努力がものを言うようになる。多くの人たちは楽をしたがる。それ自体は悪いことではない。なるべく楽をして効率よく働く。それはいい。けど、成長しないのは駄目だ。自分のやったことのない分野に挑戦し、能力を上げ続けること。それは作家でなくとも、どんな人生であろうとも必要なことなんだ」


 やっぱりこの人はいいことを言うな、と思いました。

 私ひとりだったら、きっと楽をして同じお仕事ばかり受け続けていたことでしょう。

 でも、これからはその忠告に従い、もっと自分が苦手なジャンルのお仕事も受けていこうと決心したのでした。

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