もっと文字数を書けるようにならないと

 まるで呼吸をするように書く。そんな風に自然と小説を書くことができるようになってきた私でしたが、それでも調子のいい日と悪い日というのはあるものです。

 物語の世界と一体化し自分でもびっくりするくらいスラスラと書ける日もあれば、思うようにいかず遅々ちちとして進まない日もありました。そんな時、私はストレスを感じ、おなかが痛くなってしまうのでした。

 あの人に言われた通り、決して書き殴らないように丁寧に書き進めていると、どうしても限界があります。

 執筆時間の方も最初に課題として与えられた4時間には届かず、せいぜい2時間か3時間。1時間ちょっとで終わりにしてしまう日もあります。


 それでも、「毎日書き続けるように!」という命令にだけは従い続けました。それだけは1日も破ったことがありません。それに、ひとついいこともありました。同じ時間内に書ける文字数が増えてきたのです。

 以前ならば1000文字を書くのに2時間も3時間もかかっていたものです。それが、調子のいい日ならば1時間くらいで書けるようになってきたのです。あきらかに執筆スピードが上がっています。このペースで成長し続けて、毎日4時間書けるようになれば、1日で5000文字くらいはいけるようになるかもしれません。

 私は、それを楽しみにがんばり続けました。


 そんなある日、あの人に言われました。

「リル、君は毎日がんばって小説を書いていてとても偉いと思うよ。でも、もっと文字数を書けるようにならないといけないな」

「そうですよね。私もそう思ってはいるんですけど」

「そこでだ。1つ提案がある」

「提案?」

「そう、提案だ」

「どんな提案ですか?」

「今の君は、ひとつの作品にかかりきりだ。それだと1日に書ける量が限られてしまう」

「はい、そうですね」

「そこで、同時に2作書いてみたらどうかと思うんだけど」

「同時に2作ですか?」

「そうだ。1作の執筆量に限界があるならば、2作同時に書き進めていけばいい。そうすれば1日の執筆量が倍になるんじゃないかな?」

 確かにその提案は「ありかな?」と思いました。

 現在、私はこの「音吹おとぶき璃瑠りるの誕生」をメインに書き進めています。でも、この小説は現実のできごとが進まないと、続きを書くことができません。どうしても1日の執筆量は限られてしまいます。

 それ以外の作品を書いている日もありましたが、それらはどれも中途半端なものばかり。それも毎日書いているわけではなく、日によって書いたり書かなかったり。

 もしも、もう1作同時に書き始めれば、執筆量は劇的に増えるでしょう。あの人の言う通り倍くらいにはなるかもしれません。

 そこで、私はこう答えました。

「あの~、じゃあ私やってみようと思います。でも、ちゃんとできるかな~?」

「そうだね。まだ1作も長編小説を完成させたことにない君だから、少し時期 尚早しょうそうという気もするのだけど」

「やっぱりそうですよね~」

「だけど、チャレンジするのはいいことだよ。どうしても無理そうなら、また元の方法に戻せばいいし。このままだと大きく成長することはないかもしれない。小説に限らず何事なにごとも少し無理をした方が成長が早い」

「無理した方が?」

「そう、だけどちょっとだけだよ。ちょっとだけ無理するのが一番成長が早い。無理しすぎると途中で挫折ざせつしてしまいかねない」

「ちょっとだけ、ですか」

「そう、ちょっとだけだ。どう?やってみる?」

「わかりました。やってみます!私!」

 こうして、私は2作同時に小説を執筆することに決めたのでした。

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