第57話 またですか?なのです。

 高崎大雅高校との懇親会は続く。和気あいあいと第5ダンジョン部と大雅高校ダンジョン部が会話する中、相変わらず第1ダンジョン部のテンションは低い。

「ねえ、メガネ君…、まだ鈴木会長も第1ダンジョン部の先輩方も元気ないよね…。」

「よっぽどショックだったんだね。」

「うむ。じゃあ俺が元気付けてやろう。」

「うわ!!」

 突然背後からの声にフェミちゃんとメガネは驚く。気絶からの復活を遂げたタマが何事もなかったようにそこにいた。

「びっくりした…。タマ君か。余計な事しない方が良いと思うよ。」

「いいからいいから。遠慮すんなよ。」

 誰も遠慮などしていない。そう言うとタマは第1ダンジョン部の方に行ってしまった。

「心配でしかないね…。」

「いや、心配と不安しかないよ。」

 フェミちゃんとメガネは見送る事しか出来なかった。


「鈴木会長!!元気出して下さいよ!!一回負けたくらいでなんですか!!いつものボケをかまして下さいよ!!」

「ボケたつもりは今まで一度もないんだけど?」

 でしょうね。他の部員がピリッとした空気を出す。

「そうなんですか?それは失礼しました。会長は天然って事ですね。」

 慰めに来たんじゃなかったのか?

「……まあ、いいわ。別に負けた事に落ち込んでいるわけじゃないのよ。」

「じゃあ、なんでそんなに皆さん静かなんですかね?」

 そこまで言うと男ABCがタマを少し離れた所に引っ張って行き小声で話す。

「玉乃井君、ちょっといいかな?」

「なんすか?」

「会長はね、もちろん負けたって事もあるんだけど、第5ダンジョン部との対戦に向けて何パターンも作戦を考えてシミュレーションも俺達も交えて何度も何度も繰り返しやったんだよ。」

「ふ~ん。」

 ふ~ん…は失礼だろ。

「よっぽど第5に…いや、玉乃井君に勝ちたかったんだろうな。それが無駄になった事を残念がってる…と言うか怒ってるんだよ。」

「俺のせいじゃないですよ?」

「そんな事は分かってるよ。俺達も会長の怒りが収まるまで余計な事を言わないように大人しくしてるって訳だ。だから玉乃井君もそっとしておいてくれないか?」

「嫌です!!」

 そう言うとタマは男達の輪をスポンと抜け出し会長の元に向かう。

「ふははは!!会長!どうしても俺に勝ちたかったみたいですね?やりますか?今からやりますか!?」

 当初の慰めるって感情はどこに行ったんだ?そもそも最初からそんな気はなかったのかもしれないね。鈴木会長の表情がみるみる変わる。

「やってやろうじゃないの!!そのアホ面を泣き面に変えてやるわよ!!」

 あっ怒った。

「それは楽しみですね~。」

 タマはヘラヘラと笑い、鈴木会長は顔を真っ赤して睨んでいる。その時、グラスをドンッと強く置く音がし部屋はシンとする。タマをぶっ飛ばすべく立ち上がろうとしていた丹澤慶子も動きを止めていた。

「…ちょっと、醜い言葉で空気を悪くするのは止めてくれませんか?玉乃井君も涼子も…。せっかくの美味しい料理が台無しです。」

 そう言葉を発したのは職業バーサーカーのメガネ女子、山内葵(やまうち あおい)だった。涼子ってのは鈴木会長の下の名前だったね。

「あ…え~と…ごめんなさい。」

 心臓に毛の生えているタマですらあまりの迫力に謝る。

「そうね…。葵、ごめんなさい。私としたことが取り乱したわ。」

 会長も素直に謝った。

「午後になると道の駅ダンジョンは混みます。今から行ってもまた他のチームとマッチングされる確率が高いですよ?それでも行きますか?」

「いえ…止めておくわ…。」

 鈴木会長は山内の正論に冷静さを取り戻したようだ。ホントにタマが相手だと理性を失うね会長は…。

「みんなもごめんなさい。第5ダンジョン部との決着は全高ダンに取って置きましょう。お互い勝ち進めば対戦も夢ではないしね。」

 男ABCにも笑顔が戻り皆それぞれの席に戻って行った。


「いや~あの山内先輩だっけ?凄い迫力だったな。」

「タマ君やり過ぎだよ…。」

 メガネが困ったように呟く。

「そうか?結果として丸く納まったじゃないか。」

「結果としてはね…。」

 その事はメガネも認めざるを得ない。

「お前達の高校はキャラが濃いな。」

「うわっ!!」

 背後からの突然の声に第5ダンジョン部は驚く。そこにはこれまた気絶からの復活を遂げた太田が立っていた。

「キャラが濃いってあんたには言われたくないけど?」

 テレちゃんが呆れたように言う。

「そうか?まあいいや、あの会長さんが言った通り全高ダンでまたやれるといいな。大会は4人編成だけど俺は必ず出るから今度こそ負けないぜ。」

「そうだな。まあ次勝つのも俺達だろうけどな。」

「言ってくれるな。俺達にとっては最後の全高ダンだからな…。本気で行くぜ!」

「ん?」

「なんだ?」

「最後って……もしかしてお前3年生なのか!?」

「そうだよ。ここに来てるのは全員3年だぞ。」

「3年なのに…3年なのにそんなにアホなのか!?」

「なんだとコノヤロー!!お前ら何年だ!?」

「1年だが文句あるか!?」

「年下かコノヤロー!!先輩の威厳を見せてやる!!」

 そう言うと太田はタマにドロップキックを放つ。タマはマトモに食らいボーッとしていたハンクスにぶつかる。ハンクスは吸い物に顔を突っ込み額にミツバが張り付いて○○肉マンに出てくる超人風になった。似合うぞハンクス。

「やりやがったな!!」

 タマはハンクスに謝りもせずに太田に突っ込んで行く。

「ふふ…。運動能力の高い俺に正面から突っ込んで来るとはいい度胸だ…。」

 不敵に笑う太田の目の前でタマは大きく手を広げそして…消えた。

「なに!?ウヒァ!!!」

 タマを見失った太田だったが次の瞬間に悲鳴を上げる。消えたかに見えたタマはしゃがみ、太田のジャージのズボンの中に…いや、パンツの中に氷たっぷりのウーロン茶を注ぎ込んでいた。

「このヤロウ!!これからバスと電車で帰るのに、これじゃ失禁したと思われるじゃないか!!」

 その時、二本の警策がとても木の棒とは思えない轟音を立てて2人を襲う。

 無言でタマを引き摺る丹澤慶子とニコニコしながら太田を引き摺る和泉沙織里が部屋から出て行った。どうするつもりだ?恐ろしや…。


「うちの太田がすまん。」

 野崎が深く頭を下げる。

「いえ…、うちのタマ君もすみません。」

 フェミちゃんも深く頭を下げる。

 そんな中、額にミツバが付いたままのハンクスはまだボーッとしていた。

「ちょっとハンクス君大丈夫?頭とかぶつけた?」

 心配するメガネをよそにハンクスは呟く。

「山内先輩…カッコいいな…。」

 おい、ハンクス。まさかまた恋の病か?

 

 なんともバタバタした懇親会だったね。次回!!再びあの恐怖がタマ以外の第5ダンジョン部を襲う!……つづく!!

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