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「遥!? どこ!!」夏は力の限り叫んだ。でも遥からの返事はない。

 夏は自分がどこにいるのわからない。自分がどこに向かって進んでいるのかわからない。それは遥がいないからだ。夏は遥のことをまた見失ってしまった。夏はまた迷子になってしまった。一人ぼっちになってしまった。……遥。どこ? 夏は泣きそうになりながら遥を探す。世界にはもうなにもない。太陽も雲も大地もない。ただ青色があるだけだ。風がそれ以外のすべての風景を吹き飛ばしてしまった。

 夏の憧れた青色。でも、そのせいで、どちらが上で、どちらが下なのか、もうそんなことすら、夏にはわからなくなってしまった。夏は憧れの中で世界を見失った。憧れた色だけではあまりにも眩しすぎてなにもかもが見えなくなった。……この空の中には夏と遥以外の人は誰もいない。夏が二人以外の人の立ち入りを拒否したからだ。だから誰も夏を導いてくれない。だから誰も夏を助けてはくれない。繰り返して警告する。この世界には夏以外の人間は木戸遥ただ一人しか存在しない。遥を救えるのは夏しかいない。同じように、夏を救えるのは遥しかいない。(夏は自分の気持ちを必死で立て直そうとする。でもその作業はうまくいかない。夏は壊れてしまったロボットのように同じ思考を繰り返す。エラー、エラー、エラー)

 夏の頭の中で真っ赤なランプが点灯し、激しい警報が鳴り響き始めた。

 遥、遥はどこ? 夏は懸命に視線を動かす。青色の中に遥の姿を探し求める。夏はいつものように混乱する。いつものようにゲームオーバーになる。コンティニューはない。残機もない。涙で滲んで、なにもかもがよく見えなくなる。夏の視界は霞む。……もう、どうしようもない。一人では、……生きていけない。……生きていく意味がない。(私は遥と出会うために、この世界の中に生まれてきた命なのだから)

 夏は自分を手放そうとする。……夏は、泣き始める。そうすることが夏の空を飛ぶ(夢を見る)目的でもあった。でもその行為を、きちんと受け止めてくれる人が居た。それはもちろん遥だった。泣いている瀬戸夏を救うのは、いつだって木戸遥の役目だった。


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